明治維新批判本の盛況と日本史家の反応
『週刊エコノミスト』2017年5月9日号の書評欄(P.66)に、中世史家今谷明氏が下記の寄稿をされている。
書評 歴史書の棚 「維新批判の著作ブームに 問われる歴史学者の役割」今谷明
・原田伊織著『明治維新という過ち〈改訂増補版〉』
・鈴木荘一著『明治維新の正体』
の二冊を取り上げ、その対照的行論に触れている。
論調は若干シニカルな香りが漂う。まあ、「シロートが何を言っているやら」というプロの史家のよくある反応か。
荷風の明治維新批判を持ち出すなら、和辻哲郎の明治維新批判をひょいと出すほうが適切だったような気がする。また、水戸学の名分論は南宋の知識人朱子のルサンチマン云々とあるが、水戸学の大義名分論なるものは、朱子の議論に実は存在せず、後期水戸学起源であると故尾藤正英が論じていることはご存じないようだ※。いわゆる学界定説に従っていると思われる。
「尊王攘夷」なる合成語も、中国思想史には実在せず、後期水戸学起源であることは、同じく故尾藤氏が夙に指摘し、これは日本思想史学では一応受け入れられているようだが。
※国史大辞典(吉川弘文館)
を念のため確認すると、「名分論」(=大義名分論)の項を尾藤正英氏が執筆されていた。ということは、思想史学において、尾藤説は定説となっている思われる。したがって、中世史家今谷明氏は、日本思想史の学界定説をご存じなく、巷間言われている俗説をそのまま開陳しているということになる。
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