大正時代の可能性
丸山真男は、大正3年生(1914)だ。彼は、1945年、31歳で大日本帝国の断末魔を目撃する。似たキャリアの人物に、服部正也という人物がいる。
服部正也
大正7年生(1918)
東京帝国大学法学部→海軍予備学生→敗戦時、海軍大尉
→引き続きラバウル戦犯裁判弁護人となる(BC級戦犯)
→昭和22年復員、日本銀行入行
→昭和40年ルワンダ中央銀行総裁としてIMF技術援助計画に出向
→昭和46年帰国→昭和47年世界銀行に転出→昭和55年世銀副総裁
→昭和58年退任、その後アフリカ開銀、国際農業開発基金の委員を歴任
服部は、父親の仕事がらみで、戦前、上海、ロンドンでしばらく暮らしていたから、典型的な、戦前日本の上層中産階級(upper middle class)出身と言えるだろう。
その服部がルワンダ経験を書き下ろしたのが、名著の誉れ高い、
服部正也『ルワンダ中央銀行総裁日記』中公新書増補版2009年、
(ルワンダ動乱への著者の小論を新たに加えた増補版)
である。その末尾にこうある。
「私は戦に勝つのは兵の強さであり、戦に負けるのは将の弱さであると固く信じている。私はこの考えをルワンダにあてはめた。」本書P.298
服部が、「信条倫理 Gesinnungsethik 」家となり、筋金入りのデモクラットなエリートとなったのは、エリートであるが故に、帝国海軍将校となり、敗戦とともに大日本帝国の幕引き(ラバウル戦犯裁判弁護人として)に立ち会うという、一身にして二生を経(福沢諭吉)たことが大きいだろう。
大正デモクラシー時に、upper middleの家庭で、少年として成長、エリートとなり、大日本帝国の奢りと葬送を身体に刻みつけた服部と丸山は、大正人としての戦後の二つの生き方(社会科学を構想した丸山、社会科学を実践した服部)を体現しているように思える。
〔参照1〕服部正也「ルワンダ中央銀行総裁日記」中公新書1972年
〔参照2〕大正時代の可能性に関しては次の弊記事もご参照を乞う。
与謝野晶子「何故の出兵か」(1918年)
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