古墳は《お墓》ではない?(3/結)
下記は、前回記事で引用した松木武彦氏の表を少し加工してみたものです。
松木氏は同著(P.164)でこう分析しています。
①十八基のうち、「天皇陵」に治定されているのは、八基で半数以下。
②年代順に並べたうちの中ほどのものが、特に巨大。五世紀前半から中頃あたり。最高位の長を壮大な墳丘にまつり上げる風が、そのころピークをむかえていたことのあらわれ。
③場所と年代順の特徴。
三世紀後半から四世紀前半までは奈良盆地東南部で五代続く。
四世紀中頃に奈良盆地北部に移動し二代。
四世紀後半には大阪平野に移ったのち、五世紀から六世紀前半まで河内(大阪南東部)、和泉(大阪南部)、西に離れた吉備(岡山)に、かわるがわる数基ずつ。
六世紀の後半に奈良盆地に戻るが、これを最後に巨大古墳の営みは絶える。
④まとめ。
三世紀後半から六世紀後半までの約三百年のあいだに、直径150m級以上の巨大な後円部に葬られるように社会から認められた地位の人物が、十八人あらわれた。複数が並び立つ期間がなかった仮定すると、一人あたりの「在位期間」は十六~十七年。
後円部径を基準とする巨大古墳一覧表 | |||||
築造年順 | 古墳名 | 所在地 | 所在地内の規模順 | 治定 | 後円部径(m) |
6 | 五社神 | 奈良県奈良市 | 1 | 神功皇后陵 | 196 |
5 | 渋谷向山 | 奈良県天理市 | 2 | 景行天皇陵 | 165 |
4 | 柳本行燈山 | 奈良県天理市 | 3 | 崇神天皇陵 | 160 |
1 | 箸墓 | 奈良県桜井市 | 4 | 倭迹迹日百襲姫命 | 155 |
7 | 市庭 | 奈良県奈良市 | 5 | 平城天皇陵 | 150 |
18 | 見瀬丸山 | 奈良県橿原市 | 6 | 陵墓参考地 | 150 |
2 | 西殿塚 | 奈良県天理市 | 7 | 手白香 皇女陵 | 147 |
3 | メスリ山 | 奈良県桜井市 | 8 | なし | 140 |
11 | 誉田御廟山 | 大阪府羽曳野市 | 1 | 応神天皇陵 | 250 |
13 | 大仙 | 大阪府堺市 | 2 | 仁徳天皇陵 | 249 |
9 | 石津丘 | 大阪府堺市 | 3 | 履中天皇陵 | 205 |
17 | 河内大塚山 | 大阪府松原市 | 4 | 陵墓参考地 | 185 |
8 | 仲津山 | 大阪府藤井寺市 | 5 | 仲津媛命陵 | 170 |
14 | 土師ニサンザイ | 大阪府堺市 | 6 | 陵墓参考地 | 156 |
15 | 市野山 | 大阪府藤井寺市 | 7 | 允恭天皇陵 | 140 |
16 | 岡ミサンザイ | 大阪府藤井寺市 | 8 | 仲哀天皇陵 | 140 |
10 | 造山 | 岡山県岡山市 | 1 | なし | 200 |
12 | 作山 | 岡山県総社市 | 2 | なし | 170 |
松木武彦『未盗掘古墳と天皇陵古墳』2013年、小学館、P.163より |
私が気になった点は以下。
Ⅰ.皇后、皇女といった女性が被葬者とされている巨大古墳が4基もある。
このようなことは、父系制の中華世界ではなかなかないことに属します。この点は、思想史家の故尾藤正英氏が指摘していた、日本の民俗が東南アジアと同じ双系制であったことと関連するでしょう。日本の融通無碍の「養子制」などは、中国人社会には決してあり得ないことです。
Ⅱ.巨大古墳十八基のうち、奈良盆地(前半)、大阪平野(後半)に所在する古墳が仲良く、各8基ある。
これは一つには、あの細長い奈良盆地にやたらと巨大な古墳を築造するのは手狭だったこと、二つに皇后に入ることが多かった蘇我氏の地盤の一つが大阪河内だったことと関係がありそうです。
Ⅲ.被葬者不明だが、「天皇陵」を上回るサイズの陵墓が岡山に2基あるのが、謎。
古墳を飾った埴輪は、元来、吉備地方(岡山県と広島県東部)の弥生時代後期の墳墓に始まる「特殊器台」と称される土器が出発点であることは明確なので、そういった方面の貢献がヤマト王権にも評価された、ということでしょうか。
※下記の弊記事も参照。
古墳は《お墓》ではない?(1)
古墳は《お墓》ではない?(2)
古墳は《お墓》ではない?(3/結)
奈良朝びとの古墳破壊とパーセプション・ギャップ
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