貴種流離譚
光源氏須磨流竄の原因は、犯すことが、あつたのである。其故、天上に近い生活から、自ら去つて、流離することになったとしてゐる。其犯しの種類は違ふが、竹取の赫耶姫も、愈、昇天する前になつて、翁に語つた所では、天上の者だが、聊か犯しがあつて、人界に住むことになつたと言ふのである。
さうして見ると、其爲に此世の生を享けることになつて、山の篁の、竹の節の中に、さゝやかな姫として宿つて居た訣になる。其を見つけたのが、讃岐造麻呂と、ものものしい名のついた竹取りの翁であった。掌にのせて戻って、翁姥二人住む家の娘として育み立てたが、煩しい妻呼ひする人々の出入りがあった後に、自ら昇天することになり、放すまいとする老人夫婦の手を、遁れてしまふのである。
折口信夫「小説戯曲文學における物語要素」(昭和22年)一 貴種流離譚、
折口信夫全集〈第7巻〉(昭和44年、中央公論社)、P.244
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