古墳は《お墓》ではない?(2)
(1)の続きです。
(1)では、なんのために古墳が築造されたのか、ということで、故人の事績を顕彰するというより、築造そのものが目的だったと考えました。そう考えた場合のアイデアを幾つか列挙しました。
一つは、「祭り」です。とりわけ前方後円墳が出現した地域は、銅鐸出土圏で、銅矛出土圏に比較すると共同体リーダーの存在が突出せず、共同体としての祭りが長く続いた土地でした。古墳の築造はその「祭り」そのものだったのではないか、と言う訳です。
二つは、「政(まつりごと)」です。祀(まつ)ることが同時に政治であったから、古墳築造が同時に支配・被支配関係を再確認する行事だった、つまり統治の一環だったことになります。
もう一つありそうな気がします。前回でも触れましたが、例えば、大仙陵古墳(伝仁徳天皇陵)を作るのに、大手ゼネコンの試算では、2000人/1日、延べ680万人のマンパワーを投入して、16年かかるという計算結果でした。この途方もないことが、王権による強制労働や奴隷労働でできるとはちょっと思えない。この世で、最も能率の悪い労働は奴隷労働です。それは嫌々やる作業だからです。だから、理由1)で挙げたように、「祭り」としてなら、人々も喜んでやった可能性があります。ただ、墳長が200mを超える古墳は、全国で45基あり、弥生時代の推定全国人口は約60万人ですから、古墳時代とは、列島のどこかしらで毎日、巨大古墳の築造が行われていたと思われます。それからすると、弥生人は単なるボランティアではなく、何らかの対価、報酬も支給されていたから喜んで働いていた、と考えるほうが自然のように思います。つまり、有給の公共事業だった側面もあるかと。したがって、
2-3)有給の公共事業だったから、人々は古墳築造に参加した。だから、単なるボランティアや強制労働ではない、協働して多数の人間が一つの目標に向かってする《労働》としての喜びもあった、
ということです。ちなみに、被葬者を埋葬する後円部の大きさだけを比較した表があります。それからすると、大王を埋葬するに相応しい巨大古墳は全国で18基あります。大仙陵古墳(伝仁徳天皇陵)クラスがそんなに作られていたという考古学的事実は否定しようもないので、権力によって《王》を人民に顕彰「させた」と考えるだけでは、これほどの数を築造させることは困難だ、というのが率直な感想です。
後円部径を基準とする巨大古墳一覧表(1) | ||||
築造年順 | 古墳名 | 所在地 | 治定 | 後円部径(m) |
1 | 箸墓 | 奈良県桜井市 | 倭迹迹日百襲姫命 | 155 |
2 | 西殿塚 | 奈良県天理市 | 手白香 皇女陵 | 147 |
3 | メスリ山 | 奈良県桜井市 | なし | 140 |
4 | 柳本行燈山 | 奈良県天理市 | 崇神天皇陵 | 160 |
5 | 渋谷向山 | 奈良県天理市 | 景行天皇陵 | 165 |
6 | 五社神 | 奈良市 | 神功皇后陵 | 196 |
7 | 市庭 | 奈良市 | 平城天皇陵 | 150 |
8 | 仲津山 | 大阪府藤井寺市 | 仲津媛命陵 | 170 |
9 | 石津丘 | 大阪府堺市 | 履中天皇陵 | 205 |
10 | 造山 | 岡山市 | なし | 200 |
11 | 誉田御廟山 | 大阪府羽曳野市 | 応神天皇陵 | 250 |
12 | 作山 | 岡山県総社市 | なし | 170 |
13 | 大仙 | 大阪府堺市 | 仁徳天皇陵 | 249 |
14 | 土師ニサンザイ | 大阪府堺市 | 陵墓参考地 | 156 |
15 | 市野山 | 大阪府藤井寺市 | 允恭天皇陵 | 140 |
16 | 岡ミサンザイ | 大阪府藤井寺市 | 仲哀天皇陵 | 140 |
17 | 河内大塚山 | 大阪府松原市 | 陵墓参考地 | 185 |
18 | 見瀬丸山 | 奈良県橿原市 | 陵墓参考地 | 150 |
松木武彦『未盗掘古墳と天皇陵古墳』2013年、小学館、P.163より |
後円部径を基準とする巨大古墳一覧表(2) | |||||
築造年順 | 大きさ順 | 古墳名 | 所在地 | 治定 | 後円部径(m) |
11 | 1 | 誉田御廟山 | 大阪府羽曳野市 | 応神天皇陵 | 250 |
13 | 2 | 大仙 | 大阪府堺市 | 仁徳天皇陵 | 249 |
9 | 3 | 石津丘 | 大阪府堺市 | 履中天皇陵 | 205 |
10 | 4 | 造山 | 岡山県岡山市 | なし | 200 |
6 | 5 | 五社神 | 奈良県奈良市 | 神功皇后陵 | 196 |
17 | 6 | 河内大塚山 | 大阪府松原市 | 陵墓参考地 | 185 |
8 | 7 | 仲津山 | 大阪府藤井寺市 | 応神天皇陵 | 170 |
12 | 8 | 作山 | 岡山県総社市 | なし | 170 |
5 | 9 | 渋谷向山 | 奈良県天理市 | 景行天皇陵 | 165 |
4 | 10 | 柳本行燈山 | 奈良県天理市 | 崇神天皇陵 | 160 |
14 | 11 | 土師ニサンザイ | 大阪府堺市 | 陵墓参考地 | 156 |
1 | 12 | 箸墓 | 奈良県桜井市 | 倭迹迹日百襲姫命 | 155 |
7 | 13 | 市庭 | 奈良県奈良市 | 平城天皇陵 | 150 |
18 | 14 | 見瀬丸山 | 奈良県橿原市 | 陵墓参考地 | 150 |
2 | 15 | 西殿塚 | 奈良県天理市 | 手白香 皇女陵 | 147 |
3 | 16 | メスリ山 | 奈良県桜井市 | なし | 140 |
15 | 17 | 市野山 | 大阪府藤井寺市 | 允恭天皇陵 | 140 |
16 | 18 | 岡ミサンザイ | 大阪府藤井寺市 | 仲哀天皇陵 | 140 |
松木武彦『未盗掘古墳と天皇陵古墳』2013年、小学館、P.163より |
※下記の弊記事も参照。
古墳は《お墓》ではない?(1)
古墳は《お墓》ではない?(2)
古墳は《お墓》ではない?(3/結)
奈良朝びとの古墳破壊とパーセプション・ギャップ
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