西欧におけるphallocracyの実態 2(追記20180409)Phallocracy in the West
アングロサクソンの(性差)個人主義は、ある種、筋金入りです。
ごく最近の事例でいえば、ハリウッドの騒動があります。主演の男優が5億円、ヒロインが2億円とか。どちらもすごいですが、その男女差もすごい。
別の事例では、BBCの、中国語ペラペラの有能な女性北京支局長が局長を辞任しましたが、その理由も、他の地域の男性支局長が年棒3200万円なのに、仕事の成果も能力も引けを取らない女性支局長が2000万円、ということがその抗議・辞任理由です。
これも、女性のビジネスパーソンとしては飛び抜けた報酬ですが(その意味では、能力給という個人主義的報酬)、それにしても男性幹部に対して女性幹部の報酬が40%もダウンすれば、ご本人が怒り心頭にくることも納得。それが、BBCという公共放送局での話です。
Rule of Law が、なぜ機能するかと言えば、すべての人間は同じ法の下に暮らし、同じ法で裁かれるからです。
自由貿易を巡る欧米における日本異質論では、日本がダブルスタンダードだ、という殺し文句がありましたが、なんのことはない、欧米でも少なくとも男女にダブルスタンダードがあることが端無くもばれてしまったと言う訳ですね。人間に差別はない、と言う西欧の根本理念にもダブルスタンダードが実はあるのだ、としたら、彼らの他の基本理念とその実態にかなり齟齬があることはむしろ当然です。
また先のMLのメンバーは、明治開化期の西欧価値観の移植を、彼ら西欧人の痩せ我慢を「近代的」と錯覚してしまった、と表現しています。
これは無理もない面もあります。
例えば、「対内道徳 Binnenethik と対外道徳 Aussenethik」の二重基準の廃棄は、人類史上、禁欲的プロテスタンティズム諸教派のみが、初期近代、西洋各地で猛烈な軋轢ないし闘争に直面しな がらも終には成し遂げてしまったことだ、というのが Weber の有名な仮説の一側面でした。
※参照→ 対内道徳 Binnenethik と対外道徳 Aussenethik
この世に、本音と建前の区別はないし、あってはならない。近代社会の一つの側面が、本音と建前の区別の解消です。
西欧社会は、明示化された共通のルールで運営されることで、個人の思想信条/行動の自由と個人間の対等を保証しています。それが建前です。「近代」国家とは、その人口規模、社会・経済の複雑性からいって、「建前」を押し通すことで、自由で個人間が対等な社会は作動(working)することになっています。したがって、西欧人の自己像も、その「建前」によって構築されています。それを記述する学問もです。
生真面目で勉強好きな、後進国を自任していた明治日本が西欧人の(理念的な)自己像を、true で real なものと理解して受け取るのも、無理ありません。なにしろ西欧人自身がそう言って説明していますから。私は、西欧人が近現代に創出したもろもろの成果を否定すべきだ、などとはこれっぽちも思っていません。私自身その恩恵にどっぷりつかっています。しかし、そろそろ、あまりにもナイーブな西欧像、すなわち西欧人の《修正済み》自撮り写真を真に受けるような、深窓の令嬢的なナイーブさは止めよう、と言いたいのです。
ひと昔前に、思想史家関 曠野氏が、カレル・ウォルフレンを持ち上げる言説を盛んに書いていました。ウォルフレンの指摘したことで、一つ使えるタームは「リアリティの管理者」だと私は思っています。ウォルフレンは、日本社会を批判的に分析するタームとして作った言葉なのでしょうが、これはまさに西欧社会をも分析可能とする言葉です。
西欧における近現代のアカデミズムやジャーナリズム(とりわけReuters、AP等の国際通信社)も結果的に、「《西欧近代》のリアリティの管理者」の役回りをこの150年間果たしてきたのです。
※この点、弊記事2018年の抱負の 3.徳川文明史 も参照。
これは悪意でガセネタを流して続けてきたというよりは、意図的にしろ非意図的にしろ、ある種の良心に基づいてガセネタを非西欧圏に輸出していたので、いま一つ屈折していて我々非西欧圏の人間にはその実態が分かりにくかったのでしょう。先ほどのMax Weberの仮説も、我々の蒙を開く面とともに、「西欧世界」のリアリティへのアクセスを困難にする面の正負両方の効果があったと思います。
付言しますと、私の大好きな Max Weber 尊師は、25歳でベルリン大学で学位を得てから、56歳ミュンヘン大学教授で亡くなるまで、約30年間、大学に関係していましたが、私の試算では、まともに講壇にたてたのは計5年くらいで、あとは病気療養で休職中か退職中でした。その間当然まともなサラリーはありません。
25歳から、30歳でフライブルグ大学の正教授として赴任するまでは、母親が父親の顔色を見ながら、ほそぼそと送ってくれる仕送りで暮らし、33歳で父親が急死すると、自分がウェーバー家の家長となり、財産管理人として母親と相談しながら、休職中、離職中を食いつなぎ、ようやく46歳のとき、母方の祖父の巨額の財産とネカール湖畔のお城みたいな邸宅を相続して、それで終生暮らします。
※これが負い目になったのでしょう、我らの Saint Max は、妻 Marianne のフェミニズム研究や運動を支援しています。一方で、夫婦生活では不満があったようで、自分の女弟子と肉体関係を持ちます。(20180409追記)
Weber尊師には、「職業としての学問」という非常にふざけたタイトルの「名著」がありますが、彼の人生はそのほとんどが「趣味としての学問」に等しいものでした。それであったとしても彼の全41巻50冊の巨大な個人全集※は、人類の知的遺産には違いありません。ただ、その成果は、彼の《狂気》と《富》で出来上がっていることは承知しておいたほうがよいでしょう。
※Max Weber, Max Weber-Gesamtausgabe - Mohr Siebeck
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