寺田寅彦からの警告
この颱風の真っ最中に、身に染みる内容の随筆があります。
寺田寅彦「天災と国防」(昭和九年十一月、経済往来)
寺田寅彦の科学エッセイなので、原文はすぐ読み切れます。以下のいずれかをお読みください。
1)青空文庫 寺田寅彦「天災と国防」
3)寺田寅彦『天災と国防』2011年講談社学術文庫No.2057
寺田はこう言います。
「文明が進めば進むほど天然の暴威による災害がその劇烈の度を増す」(PDF2/9下段)
その原因を寺田は二つ挙げます。
〔原因1〕
「災害の運動エネルギーとなるべき位置エネルギーを蓄積させ、いやが上にも災害を大きくするように努力しているものはたれあろう文明人そのものなのである。」(PDF3/9上段)
〔原因2〕
「二十世紀の現代では日本全体が一つの高等な有機体である。各種の動力を運ぶ電線やパイプやが縦横に交差し、いろいろな交通網がすきまもなく張り渡されているありさまは高等動物の神経や血管と同様である。その神経や血管の一か所に故障が起こればその影響はたちまち全体に波及するであろう。」(PDF4/9上段)
そして、問題を提起します。
「文明が進むほど天災による損害の程度も累進する傾向があるという事実を充分に自覚して、そして平生からそれに対する防御策を講じなければならないはずであるのに、それがいっこうにできていないのはどういうわけであるか。」(PDF4/9下段)
寺田は、震災後や台風被害の現場を実地検分して確認します。
「古い民家の集落の分布は一見偶然のようであっても、多くの場合にそうした進化論的の意義があるからである。」(PDF6/9下段)
「旧村落は「自然淘汰」という時の試練に堪えた場所に「適者」として「生存」しているのに反して、停車場というものの位置は気象的条件などということは全然無視して官僚的政治的経済的な立場からのみ割り出して決定されているためではないか」(PDF7/9上段)
こうして近現代日本人の知の奢り、経済発展の油断を警告し、一案を提出します。
「大天災に対する国防策」として「科学的国防の常備軍」(PDF8/9上段)の創設です。
彼の結びはこうです。
「天災の起こった時に始めて大急ぎでそうした愛国心を発揮するのも結構であるが、昆虫や鳥獣でない二十世紀の科学的文明国民の愛国心の発露にはもう少しちがった、もう少し合理的な様式があってしかるべきではないかと思う次第である。」(PDF9/9下段)
21世紀の日本においては、東京一極化の人口学的分散化、地方分権が、天災大国日本での対策そのものであり、縮小社会日本、化石エネルギー枯渇社会への、今から可能なランディング(ソフトかハードかわかりませんが)となることになります。
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