語りきれないが、語らざるを得ないもの
村上春樹『猫を棄てる ― 父親について語るとき』文藝春秋2020/04/25刊
にこういうくだりがある。
「フランスの映画監督、フランソワ・トリュフォーの伝記を読んだとき、トリュフォーもまた幼少の頃に両親から離され(ほとんど邪魔なものとして放棄され)、よそに引き取られた経験があることを知った。そしてトリュフォーは生涯、「棄てられる」というひとつのモチーフを、作品を通して追求し続けることになった。人には、おそらく誰にも多かれ少なかれ、忘れることのできない、そしてその実態を言葉ではうまく人に伝えることのできない重い体験があり、それを十全に語りきることのできないまま生きて、そして死んでいくものなのだろう。」pp.32-33
村上は、この文を書くためにこの作品を書いた。たとえ十全には語りきることができなくとも、逝った父親と、そして過去の自分と和解するために。
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