塩沢由典『増補 複雑系経済学入門』2020年5月ちくま学芸文庫(9)
前回より
◆書評4「第4部 自己組織する複雑系」
◆◆第10章自己組織系としての経済
この章は、自律分散型経済でどうやって一物一価が成立するのか、どうしてそこそこの効率性を達成できるのか、のメカニズムを価格裁定の原理から説明し、その解明におけるオーストリア学派の貢献と彼らの欠陥、「価値の理論」すなわち「相対価格の決定理論」の不備を指摘します。そして、経済全体として数量連関の体系、つまり合理性の限界下にあるエージェントたちの行動から、いかにマクロの産出量が集合的に決定されるかが説明され、技術進歩による影響が最終的に産業構造にどういう経路で影響を与えるのか、が論じられます。
◆◆第11章収穫逓増の諸概念とその仕組み
この章は、複雑系経済学のおける最重要な論点である「収穫逓増」概念の錯綜した問題を、経済学説史を見直しながら丁寧に再整理します。
この件は、とかく混乱しがちなので、本書p.361の、表6 4つの「収穫逓増」概念、を時どき確認しながら、読まれることをお薦めします。少し面倒ですが、論者が得手勝手な「収穫逓増」をぶち上げていますので、ここで思い込みを修正し、頭の中を整理しておいた方がよいと思います。
◆◆第12章市場変化のダイナミクス
大学のミクロ経済学には辟易されているビジネスパーソンの方も、自分から日経やら東洋経済やらに眼を通していらっしゃるなら、ここで論じられている「経済」には十分すぎるほど関心はあるのではないでしょうか。本書著者は、経済評論家ではなく、理論経済学者なので、市場経済のダイナミクスを出来る限り「理論的」に語ります。とりわけ、イノベーションに関して、複雑系経済学から何が言えるのかの見通しを得たい方にはうってつけです。
◆◆第13章二十一世紀の企業と経済
本章は、経営史をベースに20世紀資本主義の成立と21世紀への展望を語ります。経済理論と言うより、いまの我々の経済がどこに向かおうとしているか、を知りたい方、チャンドラーの経営史や、経済史・近代資本主義史に興味、関心がある方にも得るものが多い章でしょう。
本章の重要なメッセージは、「情報化」が本当に社会全体に有効機能するには、その情報が表象している実物域の改善が必須だということでしょう。実例としてコンテナ輸送を著者は挙げています。関連する一群のプロセスに一貫した規格化、標準化が伴って、コンテナ輸送システム全体の劇的な効率性が達成されているからです。社会技術、社会工学、社会に向けられた技術の改善、が伴って情報化による恩恵を享受できる、と論じています。
そして、本編末尾で、複雑系経済学の本領は、経済の働きや経済制度の進化の方向についてやや長期にわたる考察を可能することであり、そうあって欲しいと結んでいます。
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