丸山真男を逆から読む
私はこの頃しきりに思うのです。「近代」は、なぜこうも絶えず、「成長」「膨張」「増殖」するように方向づけられているのか。
マルクスは「資本」の「価値増殖過程」を automatic system として記述していましたが、「増殖」している最たるものが「人口」です。この百年くらいで、人類の個体数は明らかに「幾何級数」的、 positive feed back loop に入っています。いまは、アフリカ/アジアの最貧国の人口爆発に文句をいっていますが、19世紀から20世紀前半は欧米列強と帝国日本が人口爆発していました。
丸山真男は、1958年10月に「『である』ことと『する』こと」という小さいが卓抜なエッセイを書いています。自称インテリたちは納得顔で「そうだよなぁ。近代化しなくちゃなぁ。」とうん、うんと頷いていたのです。
「である」価値/論理から、「する」価値/論理へ。固定した「である」から、自由で躍動する「する」へ。すべての人類は、自らの「価値」を「する(=生産する)」ことを通して identification しなければならない。その帰結はなんだったのでしょうか。その全人類的 translation の帰結が、「地球環境の生態学的危機」です。
だとしたら、いま、人類に求められているのは、その逆のプロセス。「する」価値/論理から、「である」価値/論理への移行。後退ではなく、止揚された新たなる「身分社会」ではないか。
山師福澤から百五十年、丸山から遅れること半世紀。我々は、彼の卓抜なエッセイを反面教師として逆から読むことから始めるべきではないか、と今しきりに考えます。
| 固定リンク
「近現代(modernity)」カテゴリの記事
- Universal Declaration of Human Rights (1948)/世界人権宣言(2024.11.29)
- 「産業革命」の起源(1)/ The origins of the ‘Industrial Revolution’(1)(2024.11.08)
- 対米英蘭蒋戦争終末促進に関する腹案(昭和十六年十一月十五日/大本営政府連絡会議決定)/Japan's Plan to Promote the End of the War against the U.S., Britain, the Netherlands, and Chiang Kai-shek 〔November 15, 1941〕(2024.06.02)
- 自由と尊厳を持つのは、よく笑い、よく泣く者のことである(1)/ To have freedom and dignity is to be one who laughs often and cries often (1)(2023.06.05)
- 「ノスタルジア」の起源(2023.05.08)
「歴史と人口 (history and population)」カテゴリの記事
- 「産業革命」の起源(2)/ The origins of the ‘Industrial Revolution’(2)(2024.11.10)
- 書評:関 良基『江戸の憲法構想 日本近代史の〝イフ〟』作品社 2024年3月(2024.05.13)
- 戦後日本の食料自給率なぜ低下したか?/ Why did Japan's food self-sufficiency rate decline after World War II?(2023.09.18)
- 「後期高齢化」社会の現実(2023.08.31)
- 人口縮小社会:一つの帰結(2022.12.09)
「複雑系(complex system)」カテゴリの記事
- 柳田国男「實驗の史學」昭和十年十二月、日本民俗學研究/ Yanagida Kunio, Experimental historiography, 1935(2024.10.20)
- プログラム解明科学とSMT理論/Program-Elucidation Science and SMT Theory(2024.10.14)
- 塩沢由典『複雑さの帰結』1997年、の「解題集」(2024.08.13)
- 書評:関 良基『江戸の憲法構想 日本近代史の〝イフ〟』作品社 2024年3月(2024.05.13)
- 愚かな勉強法と賢い勉強法/ Stupid, or Smart Study Methods(2024.04.22)
「福沢諭吉 (Fukuzawa Yukichi)」カテゴリの記事
- 書評:関 良基『江戸の憲法構想 日本近代史の〝イフ〟』作品社 2024年3月(2024.05.13)
- 藤井哲博『咸臨丸航海長小野友五郎の生涯』1985年中公新書〔承前〕(2021.03.14)
- 丸山真男を逆から読む(2020.09.01)
- 「身分社会」再考(2020.09.01)
- 江戸モラリズムへの死刑宣告者(2020.06.24)
「文明史(History of Civilizations)」カテゴリの記事
- Universal Declaration of Human Rights (1948)/世界人権宣言(2024.11.29)
- 比較思想からみた「原罪」(peccatum originale/original sin)| Original Sin from the Perspective of Comparative Thought(2024.10.31)
- 近代工業技術の人類史へのインパクト/Impact of Modern Industrial Technology on Human History(2024.07.26)
- Greenfeld, Liah (2024) “The Rise of China and the Concept of Civilization: Constructing Conceptual Apparatus for Cross-Civilizational Comparisons”《中文版》(2024.06.17)
- Greenfeld, Liah (2024) “The Rise of China and the Concept of Civilization: Constructing Conceptual Apparatus for Cross-Civilizational Comparisons”《日本語版》(2024.06.17)
「丸山真男(Maruyama, Masao)」カテゴリの記事
- 書評:関 良基『江戸の憲法構想 日本近代史の〝イフ〟』作品社 2024年3月(2024.05.13)
- Masao Maruyama, "Carl Schmitt (Schmitt-Dorotic) (1888-1985)," 1954(2022.06.06)
- 丸山真男「シュミット Carl Schmitt (Schmitt-Dorotic)(1888-1985)」、1954年(2022.06.06)
- 丸山真男,现代自由主义理论,1948年(2022.06.05)
- Masao Maruyama, "Modern Liberalism," 1948(2022.06.05)
コメント