ブレイディみかこ『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』新潮社(2019年6月)
私が読んだ版は21刷(2020年7月10日)です。かなり売れていますね。実際読んでみて売れる理由が少しわかった気がします。その読後感です。 では目次から。
ブレイディみかこ『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』新潮社2019年6月20日刊行
はじめに
1 元底辺中学校への道
2 「glee/グリー」みたいな新学期
3 バッドでラップなクリスマス
4 スクール・ポリティクス
5 誰かの靴を履いてみること
6 プールサイドのあちら側とこちら側
7 ユニフォーム・ブギ
8 クールなのかジャパン
9 地雷だらけの多様性ワールド
10 母ちゃんの国にて
11 未来は君らの手の中
12 フォスター・チルドレンズ・ストーリー
13 いじめと皆勤賞のはざま
14 アイデンティティ熱のゆくえ
15 存在の耐えられない格差
16 ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとグリーン
さて、本を評価する場合、二通りのやり方があります。内容 or 文章、です。この本の良いのは、まずその文章あるいは文体です。知的、上品な表現から、お下品、下世話な表現まで、押したり引いたり、その緩急が縦横無尽で、読んでいて楽しく飽きさせません。この点が読者を掴んでいる第一の要因でしょう。
第二は、やはり文から滲み出る母親の愛情でしょうか。誰しも身に覚えがあり、共感するところだと思います。
第三は、今のリアルなブリテン島を伝えていることでしょうか。ふた昔前なら、故森嶋通夫著イギリスと日本―その教育と経済 (岩波新書 黄版 29)、ひと昔前なら、林望イギリスはおいしい (文春文庫)
などは、日英比較文化論では知られたものでしたが、実はどちらもグレートブリテンの upper middle class の事情でした。lower class の民情のリアルを生き生きと伝えたものは余りありませんでした。上記お二人は大学教授でしたし、他の著者たちも似たり寄ったりの境遇だったためです。
私が評価したいのは第三のコンテンツの部分です。意外にも、現代日本社会の実情と相対的に似た問題を抱えていることが窺えます。ま、これが冷戦終結後のグローバリゼーションの一つの帰結なのですから当たり前と言えば当たり前であり、現代日本がヨーロッパ化しただけというのも、歴史の皮肉です。
ヨーロッパ社会が、根本的にはどうしようもなく「身分社会」であることは、なかなか日本人に理解が浸透しないのですが、こうしてその実態の一端が伝えられることは望ましいことです。従いまして、今後もっと多様なソースと側面からリポートされることが望まれます。
現代のグローバル化した世界をヴィヴィッドに伝える好個の書として、必読の一冊だと言って良いと思います。
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