‘Unity of Image’ 、「能」から「Imagism」へ / 'Unity of Image' : from 'Noh' to 'Imagism'
前回の記事では、少し説明不足でわかりにくいことにきづきました。本記事で少し補足します。
日本美術の再興で岡倉覚三(天心)とタッグを組んだ、米人Ernest Fenollosaですが、彼は美術だけでなく、芸能にも執心で、「御一新」以降、日本人からも「旧事」と疎外され、苦境をかこっていた「能」を自ら学ぼうと、明治三名人のひとり、梅若実に稽古をつけてもらっています。明治三十一(1898)年十二月の彼の日記に稽古代のことがメモしてあり、稽古六回で十八円(一回三円、現代価値で三万円?)という稽古代で、足かけ二十年(!)もやり込んだといいますから、凄い傾倒ぶりです。その成果をまとめようと「能」約五十番の英訳稿をまとめたところで不帰の人となります(1908年)。
遺稿はフェノロサ未亡人により、Ezra Poundに托され、パウンドの整理加筆を経て、1916年ロンドン(1917年NY)で、ERNEST FENOLLOSA and EZRA POUND, ‘Noh’or Accomplishment, a study of the classical stage of Japan, 1916, London, MACMILLAN、として刊行されます。これはまず、パウンド自身に重要な示唆をもたらし、さらに、T.S. Eliotにも感興を与え、The Noh and the image(1917年)を書かせることになります。一つの「因果的偶然」(九鬼周造)が二十世紀英詩の方向性を決定した、と言えなくもないでしょう。
その際のキーワードが、‘Unity of Image’で、この紹介文の著者で、自らも演者であった国文学者小西甚一氏は、「現今の学者たちでさえ多くは知らない能の本質を、みごとに看破した」と激賞しているものです。
関 曠野氏の年来の主張である、「ミメーシス史観(あるいは、文化創造のミメーシス性)」の好例かと思います。私としては、《歴史資源 Historical Resources》と言いたいところなのですが。
前回記事もご笑覧頂ければ幸甚です。下記。
梅若実、エズラ・パウンド、三島由紀夫/ Umewaka Minoru, Ezra Pound and Mishima Yukio: 本に溺れたい
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