オジオン「聞こうというなら、黙っていることだ。」/ Ogion, "To hear, one must be silent."
ル=グウィン『影との戦い ゲド戦記1』(2009年)岩波少年文庫、p.39
Le Guin, A Wizard of Earthsea (The Earthsea Cycle), Chap.1 The Shadow
世は「コミュニケーション」なるものが相も変わらずもてはやされています。また、「コミュ障」という不快な日本語もあるようです。ただ、「コミュニケーション」の中身はと言うと、自分の主張/意図をいかにして相手に呑ませるか、という語感が強いと感じます。そして、その気運の実態は、「グローバリゼーション」という名で呼ばれてきたもののうちの、米国男性流交渉術のなれの果てではないか、と懸念してしまいます。
Ogion(=作者Le Guin)でなくとも、こういう風に語る方もいます。
The scarcest resource is not oil, metals, clean air, capital, labour, or technology. It is our willingness to listen to each other and learn from each other and to seek the truth rather than seek to be right.
[by Donella H. Meadows、ローマ・クラブ報告書『成長の限界』主筆]
(最も希少な資源は、石油や金属、澄んだ空気、資本や労働、技術などではありません。それは、私たちの、相手に耳を傾けよう、互いから学び合おう、正義よりむしろ真実を求めよう、とする心なのです。)
別の方面からもこのような指摘があります。
コーチングの基本は、相手をコーチしてやろうという高い位置からではなく、同じ位置にいて相手の話を聞こうとするものでなくてはなりません。
菅原裕子『コーチングの技術』2003年 (講談社現代新書)、p.84
以上、三人の著者が、いずれも《女性》というところがなんとも示唆的です。
〔参照1〕
「ゲド戦記」と人類学: 本に溺れたい
Donella H. Meadows (1941-2001 USA): 本に溺れたい
コーチングの人間観: 本に溺れたい
〔参照2〕chemistry(化学)、alchemy(錬金術←al-kimia《アル・キミア/アラビア語 》)の関連は下記へ。
凝固点降下と文明史(5/結): 本に溺れたい
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コメント
塩沢先生
コメントありがとうございます。
>魔術は、中世(的世界)の技術
これは、幼少から、ル=グウィンの父親、A.L.クローバーの書斎に出入りして、人類学、歴史学関連の本の世界にどっぷりつかっていたことの一つに現れと推測できます。
ケミストリー(化学)がアルケミスト(魔術師)、さらにアラビア語起源であることは、記事中に追記しました〔参照2〕を一瞥頂ければ幸甚です。
投稿: renqing | 2020年12月21日 (月) 13時53分
『ゲド戦記』、懐かしいですね。むかし読みました。魔術は、中世(的世界)の技術なのだという世界観に感心しました。
投稿: 塩沢由典 | 2020年12月19日 (土) 10時24分