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2021年6月28日 (月)

「石油」に浮かぶ文明

 「石油文明」後にどのようなカタストロフがくるか、を探求しているサイトを知りました。

Our Finite World | Exploring how oil limits affect the economy

 日本での、同様な論者に、「NPO法人もったいない学会」に集う方々がいます。

NPO法人もったいない学会 | 石油ピークを啓蒙し脱浪費社会をめざすもったいない学会

 語り方は、紳士的でオーバーではありませんが、内容はかなり深刻で、 彼等の言論を冷静に検討すると、悲観的(むしろ絶望的?)にならざるを得ません。

 この学会の発起人で初代会長は、石井吉徳(よしのり)氏です。国立環境研究所の第9代所長を歴任した東大系の人です。資源探査、石油探査、リモートセンシングの専門家で、帝国石油、石油開発公団などで20年近く実務に携わったのち、東大工学部に戻った方です。

 この学会の発行・編による、小冊子パンフレット①が市販されています。
NPO法人もったいない学会刊行『石油文明が終わる 3・11後、日本はどう備える』2011年

 この学会の副会長の下記②もあります。この方も、資源(石油/天然ガス)探査の専門家で、実務で長く携わった技術者で、地熱発電の専門家でもあります。

田村八洲夫著『石油文明はなぜ終わるかー低エネルギー社会への構造転換』2014年 東洋出版〔発売〕、小石川ユニット〔発行〕

 とりわけ、②はわかりやすく、ことの深刻さが実感できます。EPR(エネルギー収支比)概念を中心にすえて、石油の代替資源は存在しないことを述べます。

 シェールオイル、メタンハイドレート、太陽光発電、原子力発電等は、結局、cheap oil の存在が 隠れた前提になっていて、この前提が崩れると成立しない技術体系であることを 詳述しています。とりわけ、石油が枯渇する前に、核廃棄物(核のゴミ)処理の見通しをつけるの が現役世代の人類の未来への責任である、と淡々と述べています。このまま「文明の崩壊」を迎えてよいのか、と。

 低エネルギー文明への提案は、日本の地理環境を生かした、「バイオリージョン」、賀川豊彦が提唱した「立体農業」、それを引き継ぎ実践した、久宗壮の農園(岡山・作州)を事例としてあげ、その農園経営のエネルギー収支比を計算して、EPR>10と試算しています。ちなみに、石油農業は概算EPR=0.1です。

 この本も未来展望を捨てていませんが、冷静に読めば、石油文明崩壊のハード・ランディング後にしか、人口分散型の、農業中心の低エネルギー文明は到来しなさそうだ、という読後感です。 具体的には、既に投稿しましたが、 After oil における水と食料の争奪紛争、そして世界人口の2/3の餓死です。

 石炭文明は石炭を自家供給できるイングランドがシステム化しました。石炭動力機関の 第一次大戦前の戦艦は、戦闘中でも、動力室の石炭が払底すると、砲手まで動員して(砲撃を中断して)、船倉の石炭庫から動力機関室まで石炭を肩に背負って運んだ代物です。そんな悠長なことをやってられるかと、英海軍の老提督の建言を入れ、エネルギー安全保障を懸念する反対派を押し切って、ロイヤル・ネイビーのエネルギー系を石油に切り替えたのは、時のチャーチル海軍大臣です。 こうして、大英帝国はアメリカ合衆国に急所を握られてしまいました。

 石油文明は石油を自家供給できるアメリカがシステム化し、20世紀の2度の世界大戦を通じて、世界標準となりました。かつての石油メジャーであった seven sisters の5つまでが米国系なのはそのためです。

 ミサイル(通信衛星を打ち上げるロケット)やジャンボ旅客機は石炭では飛びません。火星移住計画も石油に浮かぶ泡沫(うたかた)です。

 グローバリゼーションを支えていたのは、ハイテクではありません。石油です。石油文明の崩壊は、20世紀アメリカ型文明の崩壊を同時に意味します。

 そして、石油が近未来において使用不能になることは、下記記事をご参照ください。

Peak oil とはなにか: 本に溺れたい

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