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2021年9月18日 (土)

寄生獣〔岩明均:1988-95/アニメ2014-15〕②

 小説、映画、アニメ等の創作物は、つまるところ、「気に入る」、「気に入らない」の世界です。従いまして、自分が気に入ったものが、ほかの人にも気に入ってもらえると嬉しい、という単純な動機でを書きました。

 私はオンエア時のアニメ版を原作より先に観ました。しばらく見てなかったのですが、数年まえから会員になっていた動画配信サイトのラインナップに加わったのを機に、一気に全24話を観たのが、私がこの作品にハマったきっかけです。

 岩明均の原作が「週刊アフタヌーン」で連載していた1990年代前半は、私は「ビッグコミックスピリッツ」と「少年ジャンプ」を愛読していて、岩明均の原作は定食屋などの漫画雑誌から知ってはいましたが、おどろおどろした絵、内容から読みたいとは思いませんでした。豈図らんや、六十過ぎて再び火が付き、アニメから原作に遡及した訳です。

 なぜ私が『寄生獣』という作品がむやみやたらに好きなのか。そのヒントになりそうな一文がありました。「寄生獣」完成後、自作を振り返った作者の文章が、寄生獣《完全版》⑧に転載されていまして、そのなかに、作者のプロデビュー作「風子のいる店」と「寄生獣」の作り方を比較した文章があります。下記。

 ①話の内容だけでなく、漫画のつくり方が全然違っていた。どういうことかと言うと、「風子」はまず作品の中心に「登場人物」があり、それを引き立てるために「出来事」を考えてゆく、というやり方だった。それに対し「寄生獣」はまず「出来事」が存在し、次にそれに対峙する「登場人物」たちを配置してゆく、というものである。前者の、「登場人物」にあわせて「出来事」をつくってゆく作業は非常に苦痛で、はかのいかないものだったが、「出来事」をまず先に考えるやり方はそれ自体が楽しく、作画する手先もスラスラと動いた。私はそういうタイプの漫画家だったのだ。

また、こういう一文も上記の文の前にありました。

 ②漫画家にも作品に対する考え方がそれぞれあります。人気が続き需要があるうちはいつまでもキャラクターたちに活躍してもらうという無期限進行型と、物語が終了した時がやっと完成であるという作品完成型に分かれると思います。私は後者であり、現在の日本の漫画界では少数派になるかもしれません。すなわち『寄生獣』は月刊連載という形をとりながらも長い長い1話の物語であったわけです。

 作者岩明均氏の二つの発言から、アリストテレス大先生の列挙する傑作ドラマの必須要件のうち、前半の四つ、すなわち、
1.ドラマは一定のサイズを持ち、完結したものでなければならない。
2.大事なのは役者ではない。ドラマ(「出来事の組みたて」P.36)だ。
3.ドラマの筋は、計算されたオープニング、計算されたエンディングがなければならない。
4.ドラマの筋は、統一されたものでなければならない。それは、一人の主人公がいれば統一されるものではない。ドラマに登場するすべての人物の行為が、統一されていなければならない。
アリストテレス「詩学」Aristoteles, Peri poietikes (1)、弊ブログ記事参照〕
を、満たしている(or 作者は目指そうと意識している)ことがわかります。

 他に、加藤典洋に本作が「文学を含め、戦後のベストテンに入る」(Wikipedia「寄生獣」より)との言もありますし、少なくとも七十歳の古老と六十二歳の爺さんが徹夜して読み通すくらいの魅力はあった、と言ってはよいのではないでしょうか。

 付言すれば、本作のアニメ化作品は、岩明作品以上のものです。理由は至ってシンプルです。

1)原作に忠実なアニメ化により、優れたドラマ性を引き継いでいる。
2)優れたアニメーターたちにより、作画が原作より洗練されている。
3)コンテンツが動画表現に向いている。
4)声優のキャスティングの成功。
「ミギー」:平野綾(「涼宮ハルヒの憂鬱」の涼宮ハルヒ役)
「田宮良子」:田中敦子(「攻殻機動隊」のヒロイン草薙素子役)

 総合して、日本近代文芸史に残る傑作エンターテインメントと考えます。

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