懺悔と免責/ Repentance and Immunity
近現代日本人の「立場主義」は、人間の思考と欲望を《水路付け canalization》して、個人に組織の仮面をかぶらせることで、自己判断としての責任倫理の心理的圧迫から個人を解放し、爆発的なエネルギーを引き出しましたが、それは同時に、個人の行為から発生する《責任倫理》からの免責も意味し、普通の人々を徹頭徹尾、鉄面皮にする危険もありました。
1945年の日本人は、《敗戦》を知ると、「やっと終わった」とホッとしました。その一方で、日中戦争開始以降、《お国》の立場の仮面を被っていたおかげで、一人の人間として自分の行動の「責任」から眼をそらすことができましたが、大日本帝国の崩壊でその仮面は打ち割られ、素の自分の顔が外気にさらされることともなりました。これまで(心理的には)免責されてきた「人間としての責任」が一度に日本人に押し寄せてきた訳です。狼狽(うろた)えた日本人は、懺悔しました。それは個々にではなく、「一億総出」で、です。これが、戦後日本において「戦争を起こした責任」と「戦争に負けた責任」を、個々人に分解して帰責(あるいは問責)することを不可能とさせた最大の要因だったと思います。
日本国憲法における「天皇」の《国民統合の"象徴"》機能は、この意味において最大限の効果を発揮したといえるでしょう。近代国家の最高権力者が"無答責"であるならば、凡下の者共もその象徴的な模範性に倣えば済んだからです。
そうは言っても、敗戦からの数年間は、旧「臣民」の間にも、昭和天皇退位論がかなり強く燻ぶっていたのですが、朝鮮戦争の勃発がそれをけし飛ばしました。それと同時に戦前からのパワーエリートたちも復権を果たしてしまいます。もし昭和天皇が抗いながらも世論に押されて「退位」を余儀なくされていたならば、戦後日本の、《権力と責任》という政治風景はかなり変わったものとなっていたでしょう。近現代日本人の《立場主義》、そして《アベ的なもの》を清算する最大にして最後の実に惜しまれる機会だったと今さらながら残念です。
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