熱汚染の源泉としての動力社会/Powered society as a source of heat pollution
21世紀の人類が、地球温暖化という気候変動に晒されているらしいことは、もはや否定し難い状況だと思います。地球というマクロレベルでなくとも、より分かりやすいデータがあります。
下記です。〔ポインタを画像に重ねクリックすれば、詳細度の高いクリアな画像が別画面で出ます。〕
上記は、気象庁による、全国の日最高気温35℃以上(猛暑日)の年間日数の経年変化(1910~2021年)です。気象庁の二つのコメントと、グラフのキャプション、注意事項がついています。
1.全国の猛暑日の年間日数は増加しています(統計期間1910~2021年で100年あたり1.9日の増加、信頼水準99%で統計的に有意)。〔気象庁〕
2.最近30年間(1992~2021年)の平均年間日数(約2.5日)は、統計期間の最初の30年間(1910~1939 年)の平均年間日数(約0.8日)と比べて約3.3倍に増加しています。〔気象庁〕
・棒グラフ(緑)は各年の年間日数を示す(全国13地点における平均で1地点あたりの値)。太線(青)は5年移動平均値、直線(赤)は長期変化傾向(この期間の平均的な変化傾向)を示す。〔気象庁〕
・注意事項・補足
全国の13地点は、網走、根室、寿都、山形、石巻、伏木、銚子、境、浜田、彦根、多度津、名瀬、石垣島になります。都市化の影響が比較的小さく、長期間の観測が行われている地点から、地域的に偏りなく選出しています。〔気象庁〕
ただ、地球温暖化の傾向はまず間違いのないところだとしても、それが地球全体の地質学的な超長期の変動が原因なのか、それともこの数世紀における人類の産業活動の帰結なのかは、完全に明らかであるとは言えないと思います。1万年前の最終氷期頃には、極地が氷漬けのおかげで、この列島を取り囲む海面は今より100mも低いところにあった訳ですから、数万年単位を視野に入れれば、数百年間で数℃の上昇下降は地質学的な地球の歴史では決してあり得ないことではないからです。
従いまして、人類の産業活動が地球温暖化の根源であると結論づけるのは、尚早であると考えます。ただ、少なくとも、人類の産業活動が盛んになる以前よりも、産業活動にともなって、より多くの「熱」を人類が出しているのであれば、「主犯」とまでは言えなくとも、「共犯」くらいの重みがある可能性は存在します。そして、明らかに人類の産業活動は、初期近代以前に比べれば、「熱」をより多く出し続けています。その主原因は機械動力の使用にあります。
私たち人間を含む動物は、食物(他の動植物)を摂取して、そこに含まれる栄養(主に糖類)で中間物質(ATP)を生産し、このATPを体の各部分で酸化して生命活動のエネルギーを引き出しています。その際、生物の動力系は素晴らしい「化学エンジン」(渡辺慧)で、摂取した食物類(エネルギー源)を熱に変換せず「動力化」できているため、外界に捨てる無駄な熱(廃熱)が非常に少ない。
それは動物の体温を一瞥すればわかります。人間は平熱で36℃台です。家畜は、ウシやブタ/38~39℃、ウマ/37.5~38.0℃、ペット類なら、ネコ/38~39℃、イヌ/37.5~39℃です。時速110kmで走る地上最速の動物チータは、38.3度です。ウマの動力性能は下記。
駆歩(かけあし)、時速20~30km、駆歩を出せるのは一度に30分が限度、1日だと最大30kmほど走行可能。
襲歩(しゅうほ、ギャロップ)時速60~70km、襲歩で走り続けるのは5分が限度、1日だと4~5kmほど移動可能。
つまり、人類が畜力から動力を得ていた時代には、地球温暖化など問題にはなりません。風車や水車から動力を得ていたとしても、結局太陽エネルギーの、地表における水循環や大気循環を利用しただけなので、余分な廃熱は生まれようがない。
では、人類の産業活動を可能とした、機械動力による廃熱はどうでしょうか。
蒸気機関は下記です。出典 蒸気タービンとは?|ターボ機械協会
ガソリンエンジンの場合、爆発の際の最高温度は摂氏2000度です。
これらの「熱機関」による機械動力の利用は、産業(=工業)社会の、「高速」化「大量」化、を根本的に支えています。仮に「量子コンピュータ」による「シンギュラリティ」が到来しようとも、現代人の生活水準は、石油、天然ガスといった化石燃料に依存したままであることは、2022年においても不動であると、ウクライナ危機で明白になってしまいました。
そして、熱力学第2法則〔エントロピー増大則〕から、地球上では、「運動は熱になりやすいが、熱は運動になりにくい。」あるいは、「動力は熱になりやすいが、熱は動力になりにくい。」ので、必ず熱のロス、つまり「廃熱」を生み出します。従いまして、これが現代文明における熱汚染の根本原因(の一つ)であることも明白です。
ただし、蒸気機関や内燃機関が、科学者、エンジニアの単なる実験レベル、好事家の趣味レベルなら何の問題もありません。あるいは、19世紀前半の推定世界総人口10億人なら、まだ問題にする必要もなかったでしょう。
しかしながら、21世紀の現在、全世界の推計総人口は80億人になろうとしています。2022年現在のOECD国民の総人口で13億12百万人(世界人口の17%)です。道を走っているガソリン内燃機関(つまり自動車)は2010年で10億台です。OECD諸国外の残り83%の人々が、OECDの生活レベルをできれば享受したい、と願うことは人として当然の感情です。それを否定する権利が先進国民にあるとは言えません。根拠はありますが。
もし、現代産業社会におけるイノベーション活動が人類を地球温暖化から救済するとすれば、「カーボンニュートラル」などという「迂回生産」でエントロピー/廃熱発生をむしろ悪化させることではなく、生物の動力システムである、「化学エンジン」の工学的創出とその社会基盤の構築であろうと愚考します。
〔参照〕
1.自動車は、ガソリンのパワーの60%を大気中へ捨てている: 本に溺れたい
2.渡辺慧『生命と自由』1980年岩波新書、p.122、第4章第2節「化学エンジンとしての生命」
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