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2023年2月25日 (土)

明治29年のライブニッツ/ Leibniz in Meiji 29 (1896)〔村上俊江氏肖像を追加20231217〕

Kimg0511  明治29(1896)年7月に、「ライブニッツ氏ト華厳宗」(1)という論文が、東京帝国大学文科大学哲学科に提出されました。著書は、村上俊江( Murakami, Shunko )。卒業論文ですが、学制がかなり違うので、現代で言えば、修士論文(Master's Thesis)ぐらいに相当するのではないかと思います。

 紹介者である、中村元はその著書(2)で、   左記、画像出典、(2) p.66 より

「村上俊江がこの論文を書いてから、すでに九十年近くになるというのに、「ライプニッツと華厳」というテーマを取り上げる人が一向に現れない。やはり所論を紹介する必要があると思う。」(p.67)

と内容の紹介を始めています。そして最後に、

「村上俊江以後、精緻な論文は幾らでも出ているが、しかし学問はますます矮小化しつつあるのではなかろうか。」(p.73)

と結んでいます。

 世界で最初の、「ライプニッツと華厳思想」というテーマの比較思想論考というのが中村元の評価です。この国際的先駆的論文は、中村元の肝入りで下記の書に収録されています。

(1)『華厳思想』川田熊太郎監修/中村元編集、法蔵館、昭和35(1960)年, pp.451-483
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(2)中村元『比較思想の先駆者たち』広池出版昭和52(1977)年, pp.65-73

 21世紀に入り、日本におけるライプニッツ研究の沈滞を打破しようと、下記の素晴らしい本(3)が2009年10月に出版されました。

(3)『ライプニッツを学ぶ人のために』酒井潔/佐々木能章(編)、世界思想社、2009年

 ただ、極めて遺憾なことに、日本で生み出されていた、村上俊江のこの先駆的業績には一言も触れていません。

 私が中村元の書でこの事実を知っのが、おそらく1980年代ではなかろうかと回想します。たまたま5年ほど前に(3)の存在を知り、どれどれ、さすがにラインナップされているだろう、と思ったのですが、その時点でもまだでした。

 ところが、ネット上で検索をかけてみますと、下記の村上俊江の紹介論文が2014年に出ていました。おそらく、近代日本で初めて、村上俊江のライプニッツ論を本格的に取り上げた論文であると思います。PDFでDL可能ですので、ご関心を持たれた方は閲覧されると宜しいかと思います。

酒井潔「『華厳経』と『モナドロジー』 : 村上俊江におけるライプニッツ受容」東洋文化研究 = Journal of Asian cultures 16 356-326, 2014-03学習院大学東洋文化研究所

 村上俊江の業績、中村元の村上評、酒井潔の村上評へのコメントは、私事多忙のため、別の機会に本ブログで取り上げることと致します。


※余録1 さて、Leibniz は、「ライニッツ」か「ライニッツ」か。近代日本では、「ライプニッツ」が定着しています。しかし、村上俊江は「ライブニッツ」と表記しています。はて、これは?
 実は、Duden Das Aussprachewörterbuch では、「ライニッツ」とされている、ということを下記の書で知りました。
村上淳一『仮想の近代 西洋的理性とポストモダン』東京大学出版会1992年10月、p.174註(1)

この点、あまり日本で議論されていませんが、意外に大事な点であり、村上俊江は在籍当時の帝国大学のお雇い外国人ケーベル(Koeber)先生から「正統なる発音」を間近に聞いていた可能性があります。

※余録2 村上俊江に触れている記事がありました。下記です。〔20231217〕
「ライプニッツ通信II」/工作舎web連載読み物

※余録3 村上俊江の肖像/画像は、ネット上では皆無ということに気付きました。中村元(2) p.66の章扉ウラにご令嬢提供の、貴重な肖像写真がありますので、それを私がスマホ撮影した画像を、弊ブログ記事に添付しておきます。恐らく、全世界?で初めてパブリックドメインでアクセスできる村上俊江像です。

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