法的思考様式とはなにか/ What are legal modes of thinking? 〔20230228参照追記〕
以下は、
の「法的思考様式」に関する見事な記述(pp.15-18)を、ブログ主が再構成したものです。ほぼ引用ですが、本ブログでの見易さを図るため、箇条書き、および分かち書きの必要のため、内容を変えずに表現を改めた箇所もあります。また、文中の彩色フォント、下線は引用者によるものです。ご注意ください。
1)法的思考様式は、紛争および紛争解決と不可分の関係にある。
2)紛争解決―3つの理念型
①「組織紛争」
紛争当事者の一方が、他方を物理力によって抑圧して一方の意志に従わせ、あるいは最終的には関係から排除する。
②「利益紛争」
当事者が①のような行動を行わず、取引・交渉・妥協によって合意に達し、それによって紛争状態を解消させる。
③「価値紛争」
紛争当事者が、①におけると異なり、互いに他を圧倒するだけの資源をもたず、また、②におけると異なり、妥協によって解決もできず、解決のために第三者に介入させ、その判定に服することによって紛争を解決する。
3)「組織紛争」
「組織紛争」は、紛争当事者たちのそれぞれ保有する諸資源の中の、一方が他方をコントロールできる資源(権力・物理力など)の保有量に大きな格差がある場合に生じる。もし、当事者間に何らの相互依存関係が存在しない場合には、紛争は物理力の行使によって終わる。しかし、何からの意味で相互依存関係が存在する場合には、資源の分配を異にする両者の関係は、階統制として組織され、上位者の地位は何らかの規範により正当化される。このような場合には、上位者と下位者との間の紛争は、日常的には顕在化しない。
4)「利益紛争」
「利益紛争」は、同等の資源を有する者の間で生じる紛争である。典型的には紛争当事者において欲求をみたすべき何らかの対象(財)が存在するという認識は共通するけれども、財が希少であるために、当事者全員の欲求をみたしえない状況において生じる紛争である。このときには、同等の資源を有する者同士の関係であり、かつ財の希少性についての共通の認識がある故に、財をめぐって取引・交渉が起こり、妥協によって当事者それぞれが財を得る。共通の認識は規範の共有を生み、かつ取引・交渉はそのような規範を発展・分化させるから、それらの規範に従っているかぎり、紛争は顕在化しない(市場機構による財の配分など)。
5)「価値紛争」
「価値紛争」は、当事者間において紛争を解決する有効な手段が存在しない場合生じる。「組織紛争」とは異なり、一方当事者が他方当事者を圧倒するだけの資源をもたず、また、「利益紛争」のような、紛争の対象が希少な財であるという共通の認識または規範の共有が欠けている。信念とか価値とか事実の存否とかをめぐる紛争。この「価値紛争」は、「組織紛争」や「利益紛争」とは異なり、紛争が顕在化する可能性は大きく、解決の社会的必要が生じる。当事者間での解決が困難であるとすれば、第三者が介入し、解決するために何らかの決定をしなければならない。この「価値紛争」において第三者の行う決定が法的思考様式を生む源となる。
6)法的思考様式とは?
法的思考様式は、非因果法則的、非「目的=手段」思考様式である。「価値紛争」解決のために介入を要請された第三者は、紛争当事者をコントロールするための資源を有する者であってはならない。もし、資源を有する者であれば、その者と紛争当事者の一方との間に「結託 (coalition)」が生じたとき、他方当事者は二当事者のもつ資源によって圧倒され、一方のみに有利なように解決されてしまうおそれがあるからである。したがって、当事者双方ともそのような第三者の介入を拒否するであろうから、介入する者は、「資源なき第三者(高年齢・経験・知識等の、それ自体としては他人をコントロールできない資源をもつ者)」である。つまり、「中立」的地位にある者にかぎられる。「資源なき第三者」は紛争解決のために何らかの物理的資源を動員するわけにはいかないから、なしうるのは紛争についての何らかの判断(決定)を示すことだけである。そして、紛争当事者をコントロールできる資源をもたない者がする決定なのであるから、或る目的達成のためにの手段として当事者を位置づける(そのためには資源を要するから)、という思考様式(つまり目的=手段思考様式)に立つことはできない。そして、「目的=手段」の関係が成立するためには、因果法則の存在を前提としなければならないから、このことは、「資源なき第三者」の依拠する思考様式が因果法則を前提とした思考様式ではないことを意味する。ということは、「資源なき第三者」は、紛争当事者を高次の目的を達する手段としてではなく、それ自体いわば目的として扱わなければならない。つまり、紛争当事者を相互に比較するという思考様式を採らざるを得ない。すなわち、因果法則を用いない以上、紛争当事者の一方を他方と比較してどのように扱えば、「公平」か、あるいは「正義」に適うか、という規範的判断に依拠するほかない。
たとえば、「資源なき第三者」は紛争をあたかも病気のごとくに位置づけ、病気の原因は何かを調査し、当事者の一方または双方のどの部分に原因があるかをつきとめ、その原因を除去する、という思考様式に立つことができない。それは、当事者と当事者を全体として比較する思考様式ではないから、一方のみに偏した、「公平」ではない判断として受けとられ、紛争解決の役割を果たさないからである。
7)法的思考様式は、「あれかこれか」という二項対立的な形をとる
「価値紛争」における判断であるから、妥協によって解決する「利益紛争」とは異なり、ある事実があったかなかったか、ある権利義務が存在するのか否か、という形をとることになる。この特質は、因果法則的(あるいは手段=目的)思考様式が確率や蓋然性にもとづく思考様式であるのと対照的である。
8)法的思考様式は、過去に志向する
紛争当事者の相互の比較に基礎をおくので、必然的に、当該当事者がこれまで「なしたこと」を比較対照することになるから。「将来なすであろうこと」の比較は、因果法則を前提とし、何らかの目的(犯罪の予防など)に照らして評価を加えることであるから、排除される。これと対応して、目的=手段思考様式は、将来生じうべき事態を因果法則に従って予測し、それに対してとるべき手段を示すことを任務とする。
※参照(20230228追記)
1) 思考モデルとしての法/ Law as thinking model: 本に溺れたい
2) 過去を探索する学問モデル Thinking model that explores the past: 本に溺れたい
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