初期近代の覇権国「オランダ」の重要性/ Importance of the Netherlands as a hegemonic power in the early modern period
西欧世界における初期近代(Early modern)である17Cの覇権国は、北部ネーデルランド連邦共和国でした。
カネのあるところに、当然ヒトも集まります。17Cは、欧州中の知識人(デカルトはオランダに20年間滞在しました)、優秀な学生がアムステルダムを目指し、ライデン大学(ライデン市)に留学しました。だから知が集積、交換、混淆、流通するのは必然です。その土壌から、エラスムス、スピノザ、グロティウスや、ホイヘンスなどが生まれています。
当時、欧州大陸を知的に席巻し、その後の西欧の官僚制(軍や官)のバックボーンとなったキーワード「紀律 Disziplin」は、リプシウス(Justus Lipsius)を魁とする新ストア派の哲学であり、ネーデルランドがその発祥の地です。日本における従来の西欧思想史研究では、初期近代の「オランダ」覇権の思想史的文脈の深い意味が汲み取られていません。
そして、こういう興隆する初期近代「オランダ」に、情報の窓口を開けていたのが、徳川日本である、ということは、徳川日本の知性史において、中華帝国での明朝から清朝への「華夷変態」ショックと比較すると目立ちませんが、深く長期的な影響を与えていることは確実です。それは、
*浄瑠璃・国性爺後日合戦〔1717〕三「アア胴慾なこんはんにや、うんすんすんとひれ臥て、声(ふし)も惜まず泣ゐたり」
*滑稽本・浮世床〔1813~23〕初・中「じゃがたらのこんぱんやは、おらんだの出張(でばり)にござい」
小学館日本国語大辞典「コンパンヤ」より
といった、文藝をつうじて、《コンパンニア》companhia [Portuguese] / company[English]という言葉を、庶民が身近に承知していたことを例示すれば一目瞭然です。
18C末の徳川日本の庶民には、地球が球体で、地動説があたりまえであり、「変化朝顔」の「競技」に血道をあげる、園芸セミプロの隠居や和尚たちは、事実上、「メンデルの法則」を利用すれば良いことが、出回っていたHow-to本で常識で、世界で最初に子どもむけ絵本が商業出版されたのが徳川日本である。こういう「点」の知識を、清朝中国や北部ネーデルランド共和国との知的交流も含めた、歴史文脈から「線」や「面」に読み解く作業が、日本の官学アカデミズムに欠けていることが、中高生に「歴史は暗記科目で、まったく面白くない」と誤解させる元凶であろうと思います。
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コメント
塩沢先生
励ましの言葉、誠にありがとうございます。
点を線、線を面にするには、万華鏡のように多様な姿を見せる「徳川日本」を一つの像に結ばせる「座標軸」が必要なのではないか、と思っています。今年は、この件に関してそろそろ決着をつけるべき時とも思いますので、事実の発掘と並行してやってみます。アイデアは本ブログ記事としますので、気付かれましたら、またコメントを頂ければ幸甚です。
投稿: renqing | 2023年5月16日 (火) 01時41分
素晴らしい視点です。ぜひ展開ください。
投稿: 塩沢由典 | 2023年5月15日 (月) 21時30分