« 徳川思想史と「心」を巡る幾つかの備忘録(3)/Some Remarks on the History of Tokugawa Thought and the "mind"(kokoro「こころ」) | トップページ | AI Lies: Creativity Support and chatGPT »

2023年7月10日 (月)

AI は嘘をつく: 創造性支援と chatGPT

 chatGPTに下記の質問をしてみました。

「人生は、『太く、短く』が良いか、『細く、長く』が良いか。」

その回答が、以下です。

「太く、短く」のアプローチは、人生を活気に満ちた冒険や情熱的な経験に重点を置くことを意味します。この考え方では、限られた時間の中で多くのことを経験し、自己成長や充実感を追求することが重要です。人生の豊かな経験を追求し、濃密な瞬間を楽しむことが目標とされます。

一方、「細く、長く」のアプローチは、人生を持続可能な幸福や平穏な状態に焦点を当てることを意味します。この考え方では、ゆったりとしたペースで、健康や幸福の維持に重点を置きます。長期的な目標の達成や安定した人間関係の構築、安定したキャリアの追求など、持続可能な幸福を追求することが重要とされます。

どちらが良いかは、自分自身の価値観や目標に合ったものです。一部の人々は冒険と挑戦を求め、大胆な人生を送りたいと感じるかもしれません。一方で、他の人々は安定と安心を重視し、ゆったりとした人生を送りたいと考えるかもしれません。

重要なのは、自分自身の望む人生を選択し、それに向かって進むことです。自分が何を大切にし、どのような人生を送りたいのかをよく考え、自分に合ったアプローチを見つけることが大切です。


 この「お言葉」を眼にして思ったことは、3点です。

 まず第1に、内容、分量(540字)ともに、なかなか良く出来ている文だ、ということです。実際、高校入試の推薦小論文の答案なら確実に満点でしょう。大学のAO入試の小論文でも、合格点はとれるクオリティだと思います。

 第2に、現行のAI技術は、文脈を把握する、といった意味での人間風の「読解力」はゼロであるにも関わらず、統計・推計理論とビッグデータによる強化学習というテクノロジーで、ここまで作文できる、という事態への驚き、です。

 第3に、chatGPTの作文には、時折、間違い、とか非事実、反事実が、混入するので、丸ごと信頼できない、といわれますが、そういう error は、creativity(創造性)として、むしろ有用かもしれない、という点です。人間においても、何事か新奇なこと(something new)が生まれるときは、常に、過ち、失敗、エラー、と表裏の関係にあるからです。これまで人間を支援したきた machine は、計算されたこと、予定されていたことを寸分違わず実行、実現する machine でした。そうやって、人類の福祉を増幅してきました。しかし、当然のごとく、人間に言われた通りのことしか、machine はしてくれません。正確無比ですが、creativity は期待すべきもありませんし、それで良い訳です。しかし、chatGPTを初めとする現在のAIは、そこそこ優秀で正確ではあるが、時折、人間の予想外のまちがいをしてくれます。これは、人間のcreativity を支援する machine、engine としてこそ、有効だと思う訳です。

 AIは、「読解力」よりむしろ「作文力」に長所がある。この点の指摘は、近代日本の科学史において最も creative な科学者の一人であり、計算機科学(AI)の初期の重要な開拓者の一人でもある、渡辺慧(1910-1993)が、半世紀も前に述べています。しかし、計算機の処理能力の指数関数的向上で、(言葉の)ビッグデータを統計的に処理することを通じて、機械の「読解力」と「作文力」の問題を、数学的ではなく、工学的に疑似解決できる、とはいかな天才・渡辺といえども、50年前に構想できなかったのは、仕方のないことだったと同情を禁じ得ません。
「しかし、構造分析法はいろいろな弱点があります。一つの図形があったとき、それを、どういうふうにして文法に適ったものか文法に適わないものであるかを決める、例外なしに成功する方法は一般にありません。(略)チョムスキーの文法は主として文法に適った文を作製するルールであって、その逆にある文が文法に適っているかどうか決定するという仕事には弱いのです。
 実際の文章の場合には、文法に適った文とそうでないものの区別に重大な意味があり、それは文法の書き方によらず定まっているのです。図形の場合には、その区別は逆に勝手に作った文法から決めるのであって、普通の文章の文法性が文法とは独立に認められるのとは大違いです。
 また何を要素とするか、どうして文法を発見するか等々の根本的な質問に対する満足すべき回答はありません。また一番難しい要素の同定にはやはり普通のパタン認識に頼る以外に方法がありません。ですから、理知的興味以上に大した将来をこの方法に期待することはできないと思います。」渡辺慧『認識とパターン』岩波新書1978年、pp.154-5、第4章コンピュータによるパターン認識、第6節構造分析法、より

 AIが、人間個人の能力を超えて、はるかに多くの試行錯誤を短時間にしてくれるなら、個人レベルの創造性を支援する強力な助手、秘書、協力者、となるかも知れない、というのが、今回の私の試行の最大の印象です。

|

« 徳川思想史と「心」を巡る幾つかの備忘録(3)/Some Remarks on the History of Tokugawa Thought and the "mind"(kokoro「こころ」) | トップページ | AI Lies: Creativity Support and chatGPT »

自然科学 (natural science)」カテゴリの記事

abduction(アブダクション)」カテゴリの記事

Watanabe, Satoshi (渡辺慧)」カテゴリの記事

Creativity(創造性)」カテゴリの記事

AI ( artificial intelligence)」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« 徳川思想史と「心」を巡る幾つかの備忘録(3)/Some Remarks on the History of Tokugawa Thought and the "mind"(kokoro「こころ」) | トップページ | AI Lies: Creativity Support and chatGPT »