「戦後神話」:なぜ昭和日本人は米国好きか?/ The Postwar Myth: Why do Showa Japanese Love the U.S.?
最近、以下のような質問を異国系の日本人の方から質問されました。
Q.
「岸田首相の訪米演説は本当に恥ずかしいと感じます。アメリカの走狗であってもそこまでかというぐらいに恥ずかしいです。最近オッペンハイマーの映画を見ましたが、日本の普通の人たちは、本当に被害者意識があるのでしょうか? 被爆されて死んだ人達は今、日本の対米態度を見てどう思うのでしょう。」
A.
1945年8月15日を、現代日本人は「終戦記念日」と呼称しています。
「大日本帝国」政府は、米英中3国がその20日間も前に発した(1945年7月26日付)無条件降伏勧告「ポツダム宣言」の受諾を決定、連合国に8月14日通知しました。
帝国政府がグズグズしていたその20日間に、広島原爆投下(8月6日)、ソ連参戦(8月8日、北方諸島占領)、長崎原爆投下(8月9日)がありました。この他に、爆撃機による各地への空襲は継続されていて、民間人死者は計1万4千人、これに広島原爆(14万人)、長崎原爆(7万人)を合計すると、少なくとも22万人以上の民間人死者が、大日本帝国政府の意思決定の薄弱さのために出ています。
翌8月15日正午に、昭和天皇によるポツダム宣言を受諾した旨のラジオ声明「玉音放送」が帝国臣民に向かって放送されました。そして、同年9月2日には、東京湾に浮かぶ、米国戦艦ミズーリ号の艦上で、帝国政府外務大臣(重光葵)、帝国軍大本営参謀総長(梅津美治郎)が、降伏文書に署名しました。連合国側には、マッカーサー連合国軍最高司令官、ほかに、連合国(米、中、英、ソ連、オーストラリア、カナダ、フランス、オランダ、ニュージーランド)政府代表が署名しています。これで国際法上の戦争終結となりました。
こういう事態を「敗戦」と言わずに「終戦」と言いくるめたため、帝国臣民は、大日本帝国の軍・政の指導部に「敗戦」の責任を約80年間追求もせずに21世紀に至っています。
これは勝利した連合国が「戦争を起こした」責任を大日本帝国指導部に求めた「極東軍事裁判」とは全く別の「責任」です。
それは、統治者が被治者に負っている(はずの)責任なのです。
事実、南西諸島と琉球諸島はある時期まで米軍政下(事実上の領土割譲)の憂き目を見ました。
※念のため言い添えますと、在日米軍の軍人は、2024年現在でも、旅券(米政府発給)無しで日本国領土を出入国し、日本国領土内を自由通行しています。従いまして、厚生労働省の防疫体制の外にいますので、米国内で疫病(パンデミック)が発症しますと、在日米軍基地周辺で原因、病名不詳の疫病が流行することになります。その際、厚生労働省は基地内に立ち入ることはできません(日米安全保障条約、および日米地位協定により)。つまり、在日米軍基地とは、実質的な「租界」なのです。かつて旧中国が西欧列強の喰いものにされていた頃、上海にありました。それが「租界」です。また、東京、横田基地の在日米軍司令部の地下には、在日米軍と自衛隊の軍事行動を調整する「共同統合作戦調整センター」(BJOCC)が設置されており、戦時には在日米軍と自衛隊の高度な共同軍事作戦がこの《統合司令部》から指揮展開されることになっています。そして、在日米軍は米本土の最高司令官である米国大統領の命令にしか従いません。つまり、戦時において、自衛隊は《日米安全保障条約、および日米地位協定》のもと、実質的に外国軍の指揮下に入ることになります。日本人は、これが「国辱」以外のなにものでもないことを肝に銘じておいた方がよいでしょう。とりわけ、令和の、戦争大好きおじさん、おばさんとか、「国家百年の計」とすぐ口走ってしまうような、自称「愛国者」の方々には、「頂門の一針」です。
しかしながら、「戦争」が「終わった」ことで、昭和日本人はそれまで自分たちの鼻づらを理不尽に「引きずりまわし」「支配」していた「ご主人様たち」から「解放」されたと実感しました。「ふう、やっと終わったぞ」という訳ですね。まるで、台風か地震のような自然災害のように。「台風一過」でリセット状態です。これが「戦後日本人」が享受した「自由」の核心、だったと言って良いでしょう。
その理不尽なご主人様を「成敗」してくれたのはいったい誰でしょうか。それはマッカーサーをボスとする米軍でした。従いまして、戦後日本人にとっては、米占領軍は「自由の使徒」、「奴隷状態」の「解放軍」という位置づけになります。敗戦直後、左翼知識人は本当にそう呼称していました。
従いまして、「戦後」日本人の実感からしますと、広島や長崎の原爆死者21万の躯(むくろ)は、下手人の米国軍ではなく、大日本帝国政府の「被害者」であるかのような錯覚(=「神話」)に陥ってしまうことになります。
だから、「敗戦」後の昭和日本人は、ボランタリー、かつ喜び勇んで、米国の走狗となる訳ですね。この「戦後神話」は米国、および日本におけるその代理人たち(旧帝国パワーエリートの子孫たち)の日本統治にとても効果的なので、絶えずルネッサンス(再生)され続けてきた、という落ちです。
あめりか万歳!!
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コメント
遍照飛龍 様
コメントありがとうございます。
「そもそも自分らの生活・生命を保証するわけでも責任を持つわけでもない、天皇・国家に従属して行かねばならないので、そんな国家に「自分の国家」って思う忠誠心なり愛着など希薄なのは当然ですよね。」
ご指摘のように、デモクラシーという樹木には、真っ当なナショナリズムという根が必要です。「おれたちの《くに》」と思えればこそ、「匹夫でさえ公共の事に責任感を持つ」(顧炎武)ことが出来ます。
明治維新/明治コンスティテューションの最大の罪は、近代日本人に、素朴で健全な当たり前のナショナリズム=俺たちの《くに》、意識の醸成を阻害したことです。
投稿: renqing | 2024年5月 2日 (木) 12時00分
明治以降の日本人に「天皇」を否定する原理は、ほぼ無いのでしょうね。
その「天皇」の名前で始められた戦争を、日本人では止めれなかった。
それを止めたのはアメリカと原爆と言う外圧と暴力だっやのですよね。
そもそも「日本国の建国の意義」に、「日本人の生存と安泰」があった疑わしい。
そもそも自分らの生活・生命を保証するわけでも責任を持つわけでもない、天皇・国家に従属して行かねばならないので、そんな国家に「自分の国家」って思う忠誠心なり愛着など希薄なのは当然ですよね。
投稿: 遍照飛龍 | 2024年5月 1日 (水) 10時00分