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2024年10月20日 (日)

柳田国男「實驗の史學」昭和十年十二月、日本民俗學研究/ Yanagida Kunio, Experimental historiography, 1935

 過日、年中行事ともいうべき、ノーベル賞の報道がありました。今年こそは、日本人受賞者がいるか、という、ま、オリンピックの金メダルの数を競うのと同じ、ナショナリズム的競争心の然らしむところなのでしょう。一方で、ノーベル「経済学」賞と通称されるものもあります。正式名称は、「アルフレッド・ノーベル記念経済学スウェーデン国立銀行賞」といいまして、自然科学のノーベル賞とは全く別物ですし、この賞のおかげで、「経済学」が物理学なみの「科学性」を獲得したのか?、といえば勿論そうではないでしょう。

 近年のノーベル「経済学」賞受賞業績には、実験経済学の建設、実験経済学への貢献、というものが時折、見られます。しかし、これらは方法論的個人主義に基づく、ほぼ心理学的実験とも言うべきもので、経済学の領域で言えば、ミクロ経済学分野です。社会科学は「実験」という手続きを構成することが難しい。

 もし、世人が経済学に関心を持つとしたら、以下のようなことだろうか、と思います。景気はこれからどうなるのか、今後、円安なのか、円高なのか、それが自分の収入にポジティブに関係するのか、ネガティブに関係するのか。苦しい国家財政を割いて、どういう分野にどの程度予算を投じれば、子どもたち(=未来の日本人たち)の未来をより良く出来るのか。日本の21世紀は少子高齢化まっしぐらだが、これは21世紀、あるいは22世紀日本人に不幸をもたらすのか、それとも案に相違して思わぬ幸福をもたらすのか。そして、そういった事柄に、経済学、あるいは、社会科学が、いま現在の自分たちの行動の指針、あるいはせめて手がかりになるような、知的成果を提供してくれるように求めているかな、と。尤も、なにも求めていない、という可能性も否定できません。

 しかしながら、自然科学と社会科学の最も顕著な異なりは、「実験」というものができないことでしょう。とりわけ大規模な人間群の集合的行動に関する理論を、その理論に基づいた実験計画をたて、実施してその結果を観測し、データを収集して、さらに理論を改訂する、あるいは、理論を棄却し、改めて理論を再構築する、という手続きが困難、場合によっては、不可能だ、ということであろうかと思います。

 その次善の代替物は、歴史に徴すること、だろうと私は思います。かつて、マルクス主義史学が長く歴史学界を席巻していたことがあり、現代の実証史学者は、「理論」を忌み嫌う傾向が強く、最前線の歴史学者においては、実証史学としては微に入り細を穿つ細分化された業績が積み重ねられています。しかし、それではそれらの全体を俯瞰できるかというと、なかなか難しい。

 ここは、むしろ、社会科学者が歴史学の知見を、その豊富な資源 resource として活用することが望まれると考えます。すでに
『歴史は実験できるのか』慶應義塾大学出版会2018年
Natural Experiments of History, Jared Diamond et al. 2011, Belknap Press,
という本も出ています。しかし、私としては、
柳田国男「實驗の史學」昭和十(1935)年十二月、日本民俗學研究〔所収:柳田國男全集 27 (ちくま文庫 や 6-27)
という一世紀近く前に、この日本に先行者がいるのですから、日本人こそが一足先にこの分野を開拓すべきだったと思わずにはいられません。

※下記記事は、私の粗雑な試みの一つです。

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