「産業革命」の起源(2)/ The origins of the ‘Industrial Revolution’(2)
塩沢先生
コメントと興味深い記事のご紹介ありがとうございます。
見はるかすかぎり、風車が林立している農村、などというのは、壮観かつ何か心躍るものがありますね。
※参照 ´Fryslan boppe´. An in-depth inspirational analysis of work rewarded with the 2024 Riksbank prize in economic sciences. | Real-World Economics Review Blog
ご紹介の記事の著者のいうように、'to mechanize production processes' を「産業革命」の核心とするならば、この史実は「産業革命」と言うに値します。
しかし、人力、畜力、自然力(風車、水車、帆船)では、動力源としての出力に限界があります。やはり、1765年のJ.Wattによる蒸気機関の飛躍的改良、1883年のG.Daimlerの4サイクルガソリンエンジンの実用化、この二つの、自然力の限界の突破する動力系技術の画期が、水晶宮(1851年)やエンパイヤステートビル(1931年)を人類が創り出せた核心だと思います。
一方で、大陸低地地方での史実は、人類の一つの未来像を提示しているかも知れません。エコロジストや自然エネルギー論者にも心強い具体的事例になる可能性はあります。私も、環境問題の根本的解決は、人口減少とそれに見合う規模の産業活動だろうと思っています。
徳川日本での産業活動を考えた場合、西欧における「産業革命」との突出した違いは、動力系技術の有無です。多分、徳川日本にも似たような機械的機構を作る知識と技術はあったと思います。
和算はある面では高度に発達しましたが、エンジニアリングには連結せず「無用の用」として明治を迎えました。
お茶をお客様に出す、からくり人形は、かなり精巧なオートマタです。この人形の歯車の歯の数は全て素数、という事実を下記のサイトから知りました。
素数を知っていた日本人 | texas-no-kumagusuのブログ
そのため、その人形の動作のルーチンが最大の周期になるように設計されている事になります。つまり、客が見ている間は同じ動作をしないので、まるで生きているように見えるという寸法です。
徳川日本の園芸家たちは、メンデルの法則を利用して、変化朝顔の新種を生み出すのに血眼でした。
恐らく、大型建築/土木技術にも、今まで気づかれてこなかった、数理科学的知識が応用されている事例があるでしょう。
徳川日本には、数理科学系の高度な知識も、精密なエンジニアリングもありましたが、それらは全て「遊び」でした。それも、貴族の「遊び」ではなく、庶民の「遊び」として。
※参照 芸に遊ぶ/ It is one sign of human maturity to enjoy things that are useless: 本に溺れたい
それにしても、なぜ、それを大量生産とか、動力化機械の方へ向けなかったのか。私にも現在時点で、仮説さえもありません。
しかし、それだから、近代西欧に「大日本国」は後れを取った、とは私はあまり思いません。それは、西欧人の合理性志向があまりにも偏ってきたからです。つまり「合理性への逸脱 Deviation into sense」という側面がかなりあったのではないか、と疑ってみる必要があると考えるからです。
地球の現在の耕地面積の人口扶養力が80億人なのに、現在の地球人口は80億人に達しています。この事実は、近い将来、資源の奪い合いが起こることがかなり確実だということを示すでしょう。日本列島の人口は今がほぼピークで、2100年には4000万人台になる見通しさえありますので、日本人は人口減少が庶民の幸福に生かされるような社会の仕組みを構築することで人類に良いモデルを提供できると思います。
そのとき、徳川日本という、基礎資源の輸出入をせず、庶民は豊かになる(物的生産性があがり余暇ができると)とそれを知的遊びに蕩尽した、人口規模3500万人の国家の歴史的経験を日本人は生かせるのではないでしょうか。
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