デミウルゴス(dēmiourgos/δημιουργός):哲学的理性の使命 The Vocation of Philosophical Reason
関 曠野「ロゴスの力」(初出1993年6月号『思想の科学』、所収『国境なき政治経済学へ』社会思想社刊1994年7月、pp.21-22)
そしてこの「思想が現実を作り出す」という信念は、先にヘーゲルのフランス革命観に関して少し触れたように、ヨーロッパ史とともに古い信念である。それは事実上、あのイソップの寓話(logos)とは対照的な、プラトンからヘーゲルにいたるヨーロッパ哲学の理性(logos)を支える信念にほかならない。まさにこの信念に基づいて、ヨーロッパの哲学は教会や国家を組織してきた(神学を欠いたカトリック教会、一定の法哲学を欠いた近代国家は考えられるであろうか)。「思想が現実を作り出す」という哲学の信念は、国家を組織するという理性の政治的な機能と不可分なのである。そしてこの哲学的理性の使命はプラトン以来再三、建築家や建築術の比喩をもって語られてきた。完全な知性によって設計されたおかげで時を超えて永遠に存続する理性の構築物としての国家、これが哲学の夢だった。ひとたびこの種の理性国家が出現すれば、人間社会は愛情や友情、機知やユーモアや人間性などというものがなくても存続していけるであろう。
この建築家ないしオルガナイザーとしての理性という思想は、プラトンの対話篇「政治家」の中のデミウルゴス説とともに始まる。このデミウルゴス(dēmiourgos)というギリシア語は本来は、民衆(demos)に奉仕して働く者の意味で、吟遊詩人や村の職人などを指していたのだが、プラトンは何らかのオブジェを製造するという職人の仕事の一面に目をつけた。そして自分の思想から政治的現実を製造する神的知性をそなえた政治家をデミウルゴス(造物主)と呼んだのである。こうしてヨーロッパ哲学の礎石がすえられた。そしてこの理性(logos)の伝統の完成者たるヘーゲルにおいては、世界史は巨大な建築プロジェクトのようなものと考えられている。歴史とは過去のものを土台として、その上に新しい屋上屋を建てることである。弁証法的止揚とは、新規工事で埋め立てられて消滅したかにみえる過去の事物が、新しい建物を支える土台としてちゃんと役立っているということである。歴史は次々と屋上屋を建て増ししてゆく超高層ビルの工事のようなものであり、その最上階の展望台にベルリン大学教授ヘーゲル先生がどっかと座っているというわけだ! そして『資本論』の中で蜜蜂と人間の建築家が比較されている有名な一節を読めば、マルクスもヘーゲルと同じ穴のムジナであることが分る。
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