Seki, Hirono(関 曠野)

2024年8月14日 (水)

関 曠野「現前の神話と西欧の権力」1984年11月/ Myths of the Appearance and Western Power

 世のマルクス主義者たちの多くは今日なお、マルクス自身は説いた覚えがない筈の〈弁証法的唯物論〉なるものを信奉しており、おかげで弁証法と史的唯物論をどのように統一したものか四苦八苦しているようである。そうした円を方形にするためのシジュポスの空しい労苦は、彼等にまかせておくことにしよう。しかしながら唯物弁証法(ディアマート)というキマイラは、マルクスの著作の歪曲と偽造を意味するだけではない。それは彼のテキストを歴史から孤立させて、一連の啓示からなる聖典にしてしまい、他のテキストとの関連においてそれらの歴史的に可能な意味を再=解読するという作業を、一貫して妨害してきたのである。

 こうして人々は例えば、『資本論 ―経済学批判』とフッサールの『ヨーロッパ諸学の危機と先験現象学』が、根底においては同一のテーマを扱った二つの書物にほかならないことを理解しそこねてきた。だから我々はここで改めて問おう。そもそもマルクス主義者たちは、なぜマルクスの資本主義批判が、一見まるでスコラ的試みにみえる〈経済学批判〉という形をとらざるをえなかったのか、きちんと説明したことがあったろうか。彼等はこの問いに答えることを怠り、代りに唯物弁証法と並ぶキマイラである「マルクス経済学」なるものをでっちあげた。ところが『資本論』のサブタイトルは次のことを意味している。つまり、マルクスにとって資本制生産の秘密は〈学〉の存在、「経済学」という形で組織された一定の言説秩序と不可分だということなのだ。プルードンやバクーニンに対する彼の論争も、その究極の動機は、彼のこの認識にあると言わねばならない。経済=学の存在は何を意味するのか、その批判とはどういう企てを意味するのか。こうした問いを抜きにしては、マルクスとは誰であったのか理解することは不可能であろう。

続きを読む "関 曠野「現前の神話と西欧の権力」1984年11月/ Myths of the Appearance and Western Power"

| | コメント (12)

2024年8月 6日 (火)

関 曠野「なぜジャン=ジャックは我等の最良の友なのか」2012年

 下記に転載するのは、関 曠野氏が2012年に発表したルソー論です。関 曠野氏のルソー論に関してはかなり古い前史があります。氏は、代表作と言える、『プラトンと資本主義』を1982年(北斗出版)、『ハムレットの方へ』を1983年(北斗出版)に、矢継ぎ早に世に出し、1986年には、朝日新聞社から『ルソーと近代社会』と題する新著を上梓するという予告が、いくつかのメディアにて公表されていたのです。ただ、極めて残念ながら、2024年現在においても、氏の新しい主著となるべきルソー論は、いまだ著されていません。周辺ではかなり期待され、ご本人も強い意欲を持たれて、資料の読込み、研究ノート等、執筆準備はかなり積みあがっていたように仄聞します。ただ、そういった経緯の中で、氏は2012年に本論文を公表しています。8000字、原稿用紙400字詰で20枚で、大論文とは言いかねますが、氏のルソー論がもし世に問われていればこうなっていたであろう、そして大きな議論を呼ばざるを得なかったであろう、と想像させるに足る内容となっていると思われます。是非、多くの方の目に触れてほしいと願い、デジタルリソース化して弊ブログに掲載いたします。


続きを読む "関 曠野「なぜジャン=ジャックは我等の最良の友なのか」2012年"

| | コメント (0)

2024年7月26日 (金)

近代工業技術の人類史へのインパクト/Impact of Modern Industrial Technology on Human History

そしてこの底流の動因をなしているものは近代工業技術である。技術はコンヴィヴィアルな道具たるべきだというイリイチの主張には異論はない。しかし残念ながら人間は挫折と失敗をとおしてしか学び得ぬ存在である。古代の運命にように発展してきた近代技術は、たとえセクソシスト体制をとおしてであれ、危機をとおして否応なく人間にその歴史的自己了解の様式の転回を強いる両義的で、教育的な力を秘めている。それ故に、核戦争の脅威や環境の危機にもかかわらず、現代技術が人類に及ぼす長期的なインパクトは肯定的なものと考えられる。この点でイリイチの現代文明批判は、マルクスを「経済人」のイデオローグと見る視点を含めて、いささか性急にすぎ、彼の師ポランニーの一面性と抽象性を受け継いでいるところがあるように思う。
関 曠野/書評「ホモ・エコノミクスの興隆 ― I.イリイチ『ジェンダー』」、1985年5月、より

続きを読む "近代工業技術の人類史へのインパクト/Impact of Modern Industrial Technology on Human History"

| | コメント (0)

2024年7月20日 (土)

関 曠野「知は遅れて到来する ―ドラマにおける時間について―」(1985年5月)/Seki Hirono, Knowledge Comes Late, On Time in Drama, 1985

 ソポクレスの悲劇『オイディプス王』の冒頭で、神官がオイディプスにテーバイに降りかかった災厄について報告する。誰も知りえぬ原因によって今や作物は枯れ、家畜たちは死に、生まれぬ子の産褥に女たちはあえぎ、疫病が国中を荒らしまわっている。かつてスフィンクスの謎を解いてテーバイの人々を怪物から解放したオイディプスに、再び「社会科学者」および「法の執行者」として人民の救世主になるべき時が来たのだ。そして神官が説くオイディプスの使命は、演劇そのものの使命でもある。共同体の危機と苦悩なしには、演劇はその存在理由を失う。共同体が何かの原因でアブノーマルな状態にあること―そこに一切の演劇の発端がある。

続きを読む "関 曠野「知は遅れて到来する ―ドラマにおける時間について―」(1985年5月)/Seki Hirono, Knowledge Comes Late, On Time in Drama, 1985"

| | コメント (0)

2024年7月14日 (日)

Seki Hirono, Unearthing the Forgotten History of Ideas, 1985

original:Seki Hirono, Yaban to shiteno Ie-Shakai,1987, March, Ochanomizu Shobo、pp.378-80
First Publication:朝日ジャーナル、1985年11月1日、朝日新聞社

This is a review of the following book by the historian of ideas, Seki Hirono. It is an excellent review that is simple and to the point, so we are republishing it on our blog.

Albert O. Hirschman, The passions and the interests : political arguments for capitalism before its triumph, 1977, Princeton University Press
(Princeton University Press, 2013, 1st Princeton classics ed,pbk, foreword by Amartya Sen ; with a new afterword by Jeremy Adelman)

続きを読む "Seki Hirono, Unearthing the Forgotten History of Ideas, 1985"

| | コメント (0)

2024年7月13日 (土)

関 曠野「忘れられた思想史の発掘」1985年11月

本論考は、思想史家・関 曠野の下記への書評です。簡にして要を得た優れた書評なので、弊ブログに再掲いたします。

〔訳書〕アルバート・O. ハーシュマン『情念の政治経済学』佐々木毅・旦祐介訳、1985年9月、法政大学出版局、叢書・ウニベルシタス, 165
〔original book〕Albert O. Hirschman, The passions and the interests : political arguments for capitalism before its triumph, 1977, Princeton University Press

※See(en.ed.) : Seki Hirono, Unearthing the Forgotten History of Ideas, 1985: 本に溺れたい

続きを読む "関 曠野「忘れられた思想史の発掘」1985年11月"

| | コメント (2)

2023年2月 8日 (水)

弊ブログ主のインタビュー記事、第2弾(2023年2月)

 弊ブログ主(renqingこと、上田悟司)のインタビュー記事が、前回 同様、『風餐UNPLUGGED』11号、に掲載されました。雑誌目次は本記事後半に掲載しました。 もしご関心をお持ちいただけるようなら、下記、編集部(連絡先メール・アドレス)までお問い合わせください。

問い合わせ先
風餐編集部(府川さん) logos380@qd5.so-net.ne.jp

※今回の弊インタビューのテーマは、複雑系経済学、です。


 追記しますと、本
誌中の、「OIL, WATER and ROCK Dominic Berry」は、西欧人による関曠野(英文)としては世界初(?)のものではないかと思います。ご関心を頂ければ幸甚。

※正誤表(2023/02/14)頁はすべて本誌。
p.45  〔誤〕塩沢由典プロフィール「中央大学商学部教授。現在に至る。」
        〔正〕塩沢由典プロフィール「中央大学商学部教授。2015年同退職。現在に至る。」
p.47  〔誤〕上田「この理論は塩沢さん、谷口和久、盛岡真史の三人が」
        〔正〕上田「この理論は塩沢さん、谷口和久、岡真史の三人が」

※塩沢由典氏のHP上(短信・雑感欄)で、お褒めの言葉を頂戴しました。ご参照頂ければ幸甚。
塩沢由典公式ホームぺージ(新しいPortal: 2021年11月から)

 

続きを読む "弊ブログ主のインタビュー記事、第2弾(2023年2月)"

| | コメント (0)

2022年5月15日 (日)

Why was European history a scandal? (2)

   Earlier, we uploaded "Why was European history a scandal?" as our blog post. This was an excerpt (pp.37-42)from

Seki Hirono, "Why Capitalism was Born in Europe -Rethinking the History of the West and Japan-," NTT Publishing, March 2016.

 In that quote, Seki Hirono uses the word "scandal". The word is used by the author, Seki Hirono, in that line, not in the sense we usually use in everyday language, such as "gossip," but in a more methodological use or context.

 Accordingly, we felt concerned that this misalignment might mislead readers. Therefore, we have decided to upload the original Japanese text and English translation of the "Introduction" (pp. 3-6) of the book, in which Seki Kono himself explains the term "scandal," as an additional article on our blog. Please refer to the following.

続きを読む "Why was European history a scandal? (2)"

| | コメント (0)

なぜヨーロッパ史はスキャンダルになったか(2)

 先に、弊ブログ記事として「なぜヨーロッパ史はスキャンダルになったか」をupしました。これは、

関 曠野『なぜヨーロッパで資本主義が生まれたか ―西洋と日本の歴史を問いなおす― 』2016年3月NTT出版

の抜粋(pp.37-42)でした。

 その引用文中で、関 曠野が「スキャンダル」なる語を用いています。この語は、その行文では、普段私たちが日常語で使用する意味、たとえば「ゴシップ」の類ではなく、もう少し方法論的な使い方、あるいは文脈で、著者である関 曠野により使用されています。

 従いまして、そのずれが読者に誤解を与えかねないと懸念を感じました。そこで、この「スキャンダル」という語について関 曠野自身が説明している、同書の「はじめに」(pp.3-6)につき、その日本語原文、英訳文、を弊ブログに追加の記事としてupすることに致しました。下記です。

続きを読む "なぜヨーロッパ史はスキャンダルになったか(2)"

| | コメント (5)

2022年5月 8日 (日)

Seki Hirono and Feminism (2)

 This article is a continuation of (1). This second part will be a review of the following book.

Dolores Hayden, The Great Domestic Revolution: A History of Feminist Designs for American Homes, Neighborhoods, and Cities, 1981, The MIT Press, Cambridge, Massachusetts and London, England

This review was written as a Japanese review of the following Japanese translation of the book.
The English translation of Seki's Japanese text was provided by DeepL.

ドロレス・ハイデン『家事大革命 アメリカの住宅、近隣、都市におけるフェミニスト・デザインの歴史』1985年12月、勁草書房刊、東京


 


The following words are found in p.vii of this book. I reproduce them here because they are interesting.

Away with your man-visions! Women propose to riject them all, and begin to dream  dreams for themselves.
Susan B Anthony, 1871

続きを読む "Seki Hirono and Feminism (2)"

| | コメント (0)

より以前の記事一覧

その他のカテゴリー

political theory / philosophy(政治哲学・政治理論) abduction(アブダクション) AI ( artificial intelligence) Aristotle Bergson, Henri Berlin, Isaiah Bito, Masahide (尾藤正英) Buddhism (仏教) Christianity(キリスト教) cinema / movie Collingwood, Robin G. Creativity(創造性) Descartes, René Eliot, Thomas Stearns feminism / gender(フェミニズム・ジェンダー) Football Foucault, Michel Greenfeld, Liah Hermeneutik(解釈学) Hirschman, Albert. O. Hobbes, Thomas Hume, David Kagawa, Shinji Kant, Immanuel Keynes, John Maynard Kimura, Bin(木村 敏) Kubo, Takefusa(久保建英) Leibniz, Gottfried Wilhelm Mansfield, Katherine Mill, John Stuart mimēsis (ミメーシス) Neocon Neurath, Otto Nietzsche, Friedrich Oakeshott, Michael Ortega y Gasset, Jose PDF Peak oil Poincare, Jules-Henri pops pragmatism Russell, Bertrand Schmitt, Carl Seki, Hirono(関 曠野) Shiozawa, Yoshinori(塩沢由典) singularity(シンギュラリティ) slavery(奴隷) Smith, Adam sports Strange Fruit technology Tocqueville, Alexis de Tokugawa Japan (徳川史) Toulmin, Stephen vulnerability(傷つきやすさ/攻撃誘発性) Watanabe, Satoshi (渡辺慧) Wauchopte, O.S. (ウォーコップ) Weber, Max 「国家の品格」関連 お知らせ(information) ももいろクローバーZ アニメ・コミック イスラム ハンセン病 三島由紀夫(Mishima, Yukio) 与謝野晶子(Yosano, Akiko) 中世 中国 中村真一郎(Nakamura, Shinichiro) 中野三敏(Nakano, Mitsutoshi) 丸山真男(Maruyama, Masao) 佐藤誠三郎(Sato, Seizaburo) 佐野英二郎 備忘録 内藤湖南(Naito, Konan) 加藤周一(Kato, Shuichi) 古代 古典(classic) 古書記 吉田健一(Yoshida, Kenichi) 和泉式部(Izumi Shikibu) 和辻哲郎(Watsuji, Tetsuro) 国制史(Verfassungsgeschichte) 土居健郎(Doi, Takeo) 坂本多加雄(Sakamoto, Takao) 坂野潤治 夏目漱石(Natsume, Soseki) 大正 大震災 学習理論 安丸良夫 宮沢賢治(Miyazawa, Kenji) 小西甚一(Konishi, Jinichi) 山口昌男(Yamaguchim, Masao) 山県有朋(Yamagata, Aritomo) 川北稔(Kawakita, Minoru) 幕末・明治維新 平井宜雄(Hirai, Yoshio) 平川新 (Hirakawa, Arata) 思想史(history of ideas) 感染症/インフルエンザ 憲法 (constitution) 戦争 (war) 折口信夫 文化史 (cultural history) 文学(literature) 文明史(History of Civilizations) 斉藤和義 新明正道 (Shinmei, Masamich) 日本 (Japan) 日米安保 (Japan-US Security Treaty) 日記・コラム・つぶやき 明治 (Meiji) 昭和 書評・紹介(book review) 服部正也(Hattori, Masaya) 朝鮮 末木剛博(Sueki, Takehiro) 本居宣長(Motoori, Norinaga) 村上春樹(Murakami, Haruki) 村上淳一(Murakami, Junichi) 松尾芭蕉(Matsuo Basho) 柳田国男(Yanagida, Kunio) 梅棹忠夫(Umesao, Tadao) 森 恵 森鴎外 (Mori, Ohgai) 概念史(Begriffsgeschichte) 歴史 (history) 歴史と人口 (history and population) 比較思想(Comparative Thought) 法哲学・法理論/jurisprudence Rechtsphilosophie 清少納言(Sei Shōnagon) 渡辺浩 (Watanabe, Hiroshi) 湯川秀樹(Yukawa, Hideki) 環境問題 (environment) 生活史 (History of Everyday Life) 知識再生堂 (Renqing-Reprint) 知識理論(theory of knowledge) 石井紫郎(Ishii, Shiro) 石川淳(Ishikawa, Jun) 社会契約論 (social contract) 社会科学方法論 / Methodology of Social Sciences 禁裏/朝廷/天皇 福沢諭吉 (Fukuzawa Yukichi) 科学哲学/科学史(philosophy of science) 米国 (United States of America) 紫式部(Murasaki Shikibu) 統帥権 (military command authority) 美空ひばり (Misora, Hibari) 羽入辰郎 (Hanyu, Tatsurou) 自然科学 (natural science) 荻生徂徠(Ogyu, Sorai) 華厳思想(Kegon/Huáyán Thought) 藤田 覚 (Fujita, Satoshi) 複雑系(complex system) 西洋 (Western countries) 言葉/言語 (words / languages) 読書論 (reading) 資本主義(capitalism) 赤松小三郎 (Akamatsu, Kosaburou) 身体論 (body) 近現代(modernity) 速水融(Hayami, Akira) 進化論(evolutionary system) 選択的親和関係(Elective Affinities / Wahlverwandtschaften) 金融 (credit and finance) 金言 関良基(Seki, Yoshiki) 靖国神社 高橋 敏 (Takahashi, Satoshi) 鮎川信夫 (Ayukawa, Nobuo) 麻生太郎 (Aso, Tarou) 黒田 亘(Kuroda Wataru)