松尾芭蕉(Matsuo Basho)

2026年1月26日 (月)

俳諧における方法的物我一如 / The Unity of Subject and Object in Haikai Methodology

服部土芳(はっとりどほう、松尾芭蕉の高弟)著『三冊子(さんぞうし)』1703作。
出典:新編日本古典文学全集88 連歌論集 能楽論集 俳論集、2001年、小学館、pp.578-80

09658088

原文
師の思ふ筋にわが心を一つになさずして、私意に師の道をよろこびて、その門をゆくと心得顔にして、私の道行く事あり。門人よく己を押し直すべき所なり。
 「松の事は松に習へ、竹の事は竹に習へ。」と師の詞のありしも、私意をはなれよといふ事なり。この習へといふ所を己がままにとりて、終に習はざるなり。

 習へといふは、物に入りて、その微の顕れて情感ずるや、句と成る所なり。たとへ物あらはにいひ出でても、その物より自然に出づる情にあらざれば、物と我二つになりて、その情誠に至らず。私意のなす作意なり。

 ただ、師の心を常にさとりて、心を高くなし、その足下に戻りて俳諧すべし。師の心をわりなく探れば、その色香わが心の匂ひとなり、うつるなり。詮議せざれば、探るにまた私意あり。詮議穿鑿、責むるものは、暫くも私意にはなるる道あり。ただ、おこたらず詮議穿鑿すべし。是を専用の事として、名を地ごしらへといふ。風友の中の名目とす。

現代語訳
芭蕉先生が求められた高い詩精神を自分のものとして求める努力をしないで、先生が求められたところを自分勝手に解釈して、同じ道を行く門人であると得意になって、我流の俳諧をすることがある。門人ならば、よくよく自省してそのようなことがないように努めなくてはいけない。

 芭蕉先生の言葉に「松のことは松に習うのがよい、竹のことは竹に習うのがよい」というのがあるが、この言葉は、詠もうとする対象に対する自分勝手な把握からの脱却の大切さを教えたものである。普通は、対象から無心に学ぶということをせずに、自分流に理解することによって、学んだ気になって終ってしまうことがあるのである。

 対象から無心に学ぶということは、対象と向き合い、対象に没入することによって、対象の微細な特徴が顕現してくる、そのことへの感動が自然に一句に形象化される過程における対象把握の方法をいうのである。たとえ対象の特徴を過剰なまでに一句として表現し得たとしても、対象から自然に受けた感動の形象化でないときは、一句の中で、対象と作者とが分裂してしまっており、そこに作者の作句したことに対するある種の感動があったとしても、それは誠の感動ではないので、その作品は、自分流に作り上げられた作意の句ということになる。

 我々門人は、ただただ芭蕉先生の心をいつも理解すべく努めて、詩精神を高く保持しつつも、自らの日常卑近な対象を見据えての俳諧をするのがよい。芭蕉先生の詩精神を無心に探究するならば、それが自然と自分のものになり、句に反映するのである。きちんとした探求をしなければ、そこにまた勝手な理解が入り込んでしまう。きちんと探求し、自らの詩精神を鍛練すれば、少しの間でも私意から離れることができるのである。とにかく努力して、先生の詩精神をきちんと探求しなければならない。このことが俳諧における第一義であり、この私意からの脱却を「地ごしらえ」と呼ぶのである。俳諧仲間での呼称である。

編者注釈
私意からいかにして脱却すべきか、が蕉門の人々の大きな課題だったことが分かる。芭蕉、そして蕉門の人々が求めていたのは、物我一如の俳諧だったのである。そこに障害として横たわるのが私意である。

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2023年8月 2日 (水)

暑き日を海にいれたり最上川(芭蕉、1689年)

暑き日を海にいれたり最上川(奥の細道、1689年、元禄2年6月14日)

 暑気払いに芭蕉の句をひとつ。山本健吉の《読み》でご堪能ください。

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