書評・紹介(book review)

2024年12月 9日 (月)

『殺す理由 : なぜアメリカ人は戦争を選ぶのか』/ REASONS to KILL: Why Americans Choose War?, 2010. by R. E. RUBENSTEIN

米国の国際関係論/紛争問題解決学の専門家、リチャード・E・ルーベンスタイン(Richard E. Rubinstein)の著書の一節を引きます。

*この著者は、ちくま学芸文庫『中世の覚醒:アリストテレス再発見から知の革命へ』 訳:小沢千恵子, 2018年, の方が読書人には知られているかも知れません。

『殺す理由:なぜアメリカ人は戦争を選ぶのか』2013年紀伊国屋書店、p.261
REASONS to KILL: Why Americans Choose War, 2010, Bloomsbury Press, p.167)

「アメリカは比類ない徳を有するという思いこみは、過去に行った数々の介入のよりどころとなっていた。それはまた、私たち(米国人のこと:引用者註)に自己欺瞞と度重なる非人道的抑圧という堕落への道に導いてきた。」
'The assumption of unique American virtue that has underpinned past interventions has also led us down the road of self-deception and replication of inhumane forms of oppression.'

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2024年10月27日 (日)

ドアを閉じる学問とドアを開く学問/ The study of closing doors and the study of opening doors

学問の世界では、問題を解決してみせるよりも遥かに重要なのは、新たな問題を見つけてくることで、我々の埋め込まれている世界をより大きく広げて行くことなのです。要するに、その問題を解決してドアを閉じてしまう業績よりも、新しい世界を提示してドアを開ける業績の方が桁違いに讃えられるのです。

上記の素晴らしい言葉は、

(11) 素数の何が解明されたら世の中は大きく変わりますか? - Quora
という記事中の、
Petrosky Tomio 氏(物理学者)の返信の結びの言葉です。久しぶりにグッと心にきました。

 

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2024年10月20日 (日)

柳田国男「實驗の史學」昭和十年十二月、日本民俗學研究/ Yanagida Kunio, Experimental historiography, 1935

 過日、年中行事ともいうべき、ノーベル賞の報道がありました。今年こそは、日本人受賞者がいるか、という、ま、オリンピックの金メダルの数を競うのと同じ、ナショナリズム的競争心の然らしむところなのでしょう。一方で、ノーベル「経済学」賞と通称されるものもあります。正式名称は、「アルフレッド・ノーベル記念経済学スウェーデン国立銀行賞」といいまして、自然科学のノーベル賞とは全く別物ですし、この賞のおかげで、「経済学」が物理学なみの「科学性」を獲得したのか?、といえば勿論そうではないでしょう。

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2024年9月23日 (月)

リア・グリーンフェルド『ナショナリズム入門』2023年11月慶應義塾大学出版会/訳:小坂恵理, 解説:張 彧暋〔書評③〕

今回から内容書評に入ろうと思い、そのための下準備として、原著者のオリジナル概念、「近代政治の二重らせん double-helix of modern politics」、「尊厳資本 dignity capital」などの箇所を再読しました。そこで、訳文に重大な瑕疵と判断されるものと見つけてしまいましたので、申し訳ありませんが、もう一回、その指摘をさせて頂きます。ことはイスラム過激派に関する記述なので、政治的な意図で、歪曲されて流用されないとも限りません。念のため、本ブログの書評の一部として残しておくことに致します。

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2024年9月18日 (水)

リア・グリーンフェルド『ナショナリズム入門』2023年11月慶應義塾大学出版会/訳:小坂恵理, 解説:張 彧暋〔書評②〕

まことに恐縮ですが、誤訳、誤字と目されるものが散見しますので、内容を論ずる前に片づけておきます。

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2024年9月16日 (月)

リア・グリーンフェルド『ナショナリズム入門』2023年11月慶應義塾大学出版会/訳:小坂恵理,解説:張 彧暋〔書評①〕

※詳細目次は本ページ最下段をご参照ください。

◆難しい書
 本書は、《入門 Introduction》と書名にありますが、内容的に、超領域的、高度で、難解な著作です。抽象度が高く、対象への方法論(approach)を厳密に定式化したうえで、理論的に行論が進みます。

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2024年9月 8日 (日)

「自尊感情 self-esteem」の源泉

'I love a Fool', from “Essays of Elia”(1823) by Charles Lamb
'in sober verity I will confess a truth to thee, reader. I love a Fool - as naturally, as if I were of kith and kin to him.'
"Essays of Elia" 8. All Fools' Day
「読者諸君に真実を告白しましょう。私は愚か者を愛しています、 まるで親類縁者であるかのように。」
チャールズ・ラム『エリア随筆集』1823年
これが、「自尊感情 self-esteem」の源泉だと思います。自分の中の「愚かさ」を笑える(愛せる)からこそ、他者の「愚かさ」でさえ、愛せるし、笑うことができる。

現代日本の「お笑い」は、他者を冷酷に「笑う」だけです。だから、己を笑えないし、愛せない。 English は基本的に大嫌いですが、Charles Lamb は例外にしておきます。

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2024年8月29日 (木)

T.S.エリオットによる、ウォーコップ『合理性への逸脱:ものの考え方』1948、への紹介文

‘Deviation into Sense: The Nature of Explanation’ by O.S. WAUCHOPE, 1948, London, FABER & FABER

◆ブログ主による注釈
 以下の文は、本書初版ジャケットの前後フラップ記載のものです。これは、おそらく当時、FABER & FABER社の文芸部門取締役だった、T. S. Eliot 執筆にかかるものと私は推定します。この4年前(1944年)には、ジョージ・オーウェルが持ち込んだ『動物農場』原稿を没にしたエリオットが、最終章に豚が登場するこの奇書の出版を推進するとは、なんという歴史の皮肉でしょう。

※英語原文は、Introduction by T.S. Eliot to O.S. Wauchope: 本に溺れたい をご参照ください。

 当時の分析哲学真っ盛りの England 哲学界の中心Londonで、このような反時代的哲学書を出すことは、出版人としてはかなり勇気が必要だったはずです。なにしろ、ギルバート・ライルの『心の概念』が翌年の1949年に出版されて、大反響を得る、という時代です。もしWauchopeの本書の原稿が、反骨の詩人T.S. Eliot が文芸部門取締役をしているFaber & Faber に持ち込まれるという僥倖がなければ、本書は決して日の目を見ることはなかっでしょう。そして、そのエリオットを含む英文学の研究者深瀬基寛がたまたま本書を手にしなければ、本書の日本語訳書は出ることはなかったに違いありません。そして、Wauchopeから絶大な影響を受けた、安永浩による精神病理学の一連の業績も無かったでしょう。中井久夫は安永浩をこう評しています。「……安永は今後何度も再発見されるであろう……。」人の世の巡り合わせの不思議を思わざるを得ません。

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2024年8月28日 (水)

マイケル・オークショットの書評(1949年)、O.S.ウォーコップ『合理性への逸脱』1948年

以下は、Times Literary Supplement(15 January,1949), 45 に掲載されたマイケル・オークショット書評の日本語訳です。
※英語原文は、Michael Oakeshott's Review(1949), O.S.Wauchope, Deviation into Sense, 1948: 本に溺れたい へどうぞ。

書評本
Oswald Stewart Wauchope, Deviation into Sense: the Nature of Explanation.
London, Faber and Faber, 1948.
〔邦訳 O.S.ウォーコップ/深瀬基寛訳『ものの考え方:合理性への逸脱』昭和26年、弘文堂/昭和59年、講談社学術文庫

◆ブログ主による注釈
 20世紀における最も重要な政治哲学者の一人である、マイケル・オークショット(Michael Oakeshott)は、無類の書痴で、生涯に夥しい reviews を残しています。そのうちの一つに、なんと、故深瀬基寛氏が昭和26年に訳出した、O.S.ウォーコップ『ものの考え方 ー合理性への逸脱』弘文堂(のちに講談社学術文庫から復刊)の原本に対して、Times Literary Supplement上にreviewを書いていました。本書は、Faber & Faber,London という超一流の出版社(T.S.Eliotが学芸部門のdirectorをやっていた)から出されていたのですから、当時のLondonの知識人社会で多少は耳目を引いたと思うのですが、ほとんど無視され、何の知的痕跡も残しませんでした。分析哲学真っ盛りの当時の英米哲学では、こういう本は全く受けなかった訳です。4年のタイムラグで持ち込まれた二人の作家、オーウェルの『動物農場』をrejectして、全く無名の Wauchope の出版を決断したのはおそらく Eliot です。売れる筈のオーウェルを没にし、まあ売れないだろうウォーコップの出版決定をするとは、T.S. Eliotの偏屈さと聡明さをともに象徴しているとも言えそうです。
 ま、そのおかげで、日本では素晴らしい訳が出て、それが、故安永浩氏の著作を通じて日本の精神医学界に安永ファントム空間理論へと大きな知脈を残しています。これも、「選択的親和性 Die Wahlverwandtshaften/Elective Affinities」(Max Weber)の事例だと思います。この Oakeshott の review は、Wauchope の提出した議論の面白さ、重大さを認識はしています。しかし、迷っている節があります。本書の反時代的偉大さにさすがの Oakeshott も決定的な支持を明確にはしていないようです。本書評はこう結ばれています。「しかし、読者が細部の誤りや支離滅裂さを嘆くことがあろうとも、本書はそのような誤りが致命的となる類の本ではない。 この本には、もっと重大な誤りにも耐えうるだけの天才と、十二分な生命力がある。」
 西欧人、西欧の学知は、「合理性へ逸脱してしまった」という議論ですので、いまでも西欧人は嫌な顔をしそうです。非西欧人は本書をじっくり読んだ方がよいと思います。その呼び水になれば嬉しいです。

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2024年8月27日 (火)

Introduction by T.S. Eliot to O.S. Wauchope (1948)

Deviation into Sense: The Nature of Explanation, by O.S. WAUCHOPE, 1948, London, FABER & FABER

The following text is from the front and back flaps of the jacket of the first edition of this book. I presume it was written by T. S. Eliot, then director of the literary division of Faber & Faber. What an irony of history that Eliot, who four years earlier (1944) had rejected George Orwell's manuscript of “Animal Farm,” would promote the publication of this strange book in which a pig appears in the final chapter. It must have taken a lot of courage for the publisher to publish such an antiquated philosophy book in London, the center of English philosophy at the height of analytic philosophy at that time. After all, Gilbert Ryle's “The Concept of Mind” was published in 1949, the following year, to great acclaim. If it had not been for the fortuitous chance that Wauchope's manuscript for this book was brought to Faber & Faber, where the rebellious poet T.S. Eliot was director of the literary department, the book would never have seen the light of day. And if Motohiro Fukase, a scholar of English literature who includes Eliot, had not happened to come into possession of this book, it would never have been translated into Japanese. And Koichi Yasunaga, who was greatly influenced by Wauchope, would not have been able to produce a series of works on the subject. Hisao Nakai described Koichi Yasunaga as follows. “...... Yasunaga will be rediscovered ...... many times in the future.” One can't help but wonder at the strangeness of the human world.

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